この手につかみたいもの

BACK | NEXT | TOP

  18  



「……キラが行方不明?」
 どうしても抜けることが出来ず、フラガはキラの迎えをカガリに頼んだ。
 その彼女が焦ったように伝えてきた言葉に、フラガだけではなくその場にいた全員が驚きの表情を作る。
「あぁ……迎えに行ったとき、いつもの場所にいなかった……ただ、あいつが森の方へ行ったのを見た人間がいて……で、探してみたら、これが落ちていた……」
 そういいながらカガリが差し出したのは、キラが身につけているはずのIDだった。これはある意味、キラの場所を知らせてくれるナビゲーターでもあった。それを落としていったのは故意なのか、それとも偶然か。
「って言うことは、拉致?」
「単なる誘拐ならいいんだけどな」
 ため息混じりに言葉を口にしながらも、フラガはその可能性がないと思っていた。
「どちらにしても、これがなくても気にならないって言うことか……」
 IDがなければ、正式な方法での出国は難しい。
 もし単純にキラを連れ出すつもりならば、IDがないと気づいた時点で探しに戻ってくるはず。だが、それを放置したまま本人の身柄だけを連れ去った……と言うことは、新たなIDを入手できる相手だと言うことだ。
「と言うことは?」
 どういう事なんですか、とカガリだけではなくラミアス達もフラガに次の言葉を促す。
「モルゲンレーテ社の対立企業なんかじゃなく、もっと大きな組織の可能性があるって事だよ。でなきゃ、こんな風に坊主を連れ去る必要なんてないだろう」
 これが落ちていれば、即座にオーブ本国が動き出すに決まっているしな……とフラガは付け加える。
「そうだろう、お嬢ちゃん?」
「あぁ。既に空港や港には通達が行っているはずだ。キラが見つかり次第保護してくれることになっている。国内でも、該当機関が動いている。オーブ国内にいる限り、探し出せると思う」
 もっとも、100%とはカガリにも言い切れないらしい。いつものあの力にあふれた口調が今は潜められている。
「……キラ・ヤマトに、オーブがそれだけの労力を割くのはどうしてなのかしら?」
 にっこりと微笑みながらラミアスが二人に問いかけてきた。
「そりゃ、坊主の頭の中身が問題なんだろう。一応、オーブの最重要機密に関わっているんだし」
「それに、あなた方に約束したからな。モルゲンレーテ社での仕事の最中、あいつの身柄はオーブが保証すると」
 その約束は守らなければいけないだろうとカガリは主張をする。
「そうですけど……」
 しかし、ラミアスはまだ納得できないようだ。なおも口を開こうとした瞬間だった。
「……バスターとデュエル……ですか? 小型艇の追跡を邪魔したわけですね?」
 彼らの耳に焦ったようなカズイの声が届く。
「……どうやら、坊主をさらったのはザフトの連中だったらしいな……」
 忌々しそうにフラガが呟いた。その言葉の裏に見え隠れしているものに、その場にいた全員が息をのむ。
「あの一件が連中の耳に入っていれば坊主の命だけは保証されるだろうが」
 厄介だな、と告げる彼の言葉に誰も動くことが出来なかった……

「そうか……わかった。そのままこちらに戻ってくるがいい」
 アスランからの報告を耳にしてクルーゼは満足そうに微笑んだ。だが、すぐにその表情を引き締める。
「医療局に連絡。第一種精神分析の準備をしておくように」
 そして、彼の口から出た言葉に周囲の者たちに緊張が走った。
「クルーゼ隊長?」
 命じられた者がその場にいた全員を代弁するようにこう問いかける。
「拉致された人物は、過去に精神拘束をかけられている可能性がある」
 どこで入手した情報なのか、それは彼らにもわからない。だが、クルーゼには確信があるのだろう。きっぱりとした口調でこう告げた。同時に、彼はそれ以上の質問を許さないと態度で示している。
「了解しました!」
 そんな彼の様子に即座にこう返すと、きびすを返して駆けだしていく。
「……さて、可愛い小鳥と取り上げられたあの男はどうしているかな……」
 周囲の者たちも再び自分の仕事に戻っている。そんな彼らを見回しながら、クルーゼは口の中だけで呟く。
「今度は私の勝ちだな、ムウ」
 気を抜きすぎだ、と満足そうな笑みを浮かべるとクルーゼは腰を上げた。
「とりあえず、一報を入れておかねばならぬだろうな。詳しい報告は確認を終えてからでもかまわないだろうが……」
 それでも彼を手元に置くためにはしかたがないか、とクルーゼは口の中だけで呟く。おそらく、アスランは彼を手元から離さないだろう。そして、彼のパイロットとしての才能は十分その価値を持っている。十分理由になってくれるだろう。
「まぁ、あくまでもこちらの希望だがな。ストライクを奪取できなかったのは残念だが、しかたがあるまい」
 そのまま彼はその場を後にした……


BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝