この手につかみたいもの

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「……ストライクのパイロットの捕縛? どういう事ですか!」
 宇宙から降りてきたクルーゼの言葉にイザークが声を震わせながら問いかけてくる。
「彼の身柄が必要だからだ。我々コーディネーターの未来のために」
 正確に言えば、彼の遺伝子が……とクルーゼは付け加える。その言葉にイザーク達だけではなくアスランまでもが眉をひそめた。
「隊長、詳しい説明をお聞きしてもかまわないでしょうか?」
 キラに自分が知らない何かがあるのか。その思いを押し隠してアスランが問いかける。
「未確認なのだが……彼はネィテブ・コーディネーターの可能性がある……との報告だ」
「ネィテブ・コーディネーター?」
 ニコルが小首をかしげつつもその言葉を口の中で呟く。
「……そうだ。彼の両親が彼をコーディネイトした記録がない。しかし、ストライクの今までの戦闘記録だけを見ても彼がコーディネーターだと言うことは疑うことは出来ないだろう」
 信じられないと言うようにイザーク達は目を丸くした。
 だが、同時にそれならば『裏切り者』である彼を捕縛する必要も納得できる。
 コーディネーターはわずか二世代で種の限界を迎えようとしていた。それを打ち壊すためにも何の遺伝子操作を加えられることなくコーディネーターとして生まれた彼の遺伝子情報が必要なのだ。
「それに、彼と面識を持っている者もいる」
 そう言いながらクルーゼはアスランへと視線を移した。
「アスラン?」
 つまり、彼は最初からストライクのパイロットがコーディネーターだと知っていたと言うことだろう。
「……貴様……」
 イザークが咄嗟にアスランの襟首を掴んで自分の方へと引き寄せる。その手をアスランが強引に振り払う。
「よさないか、イザーク」
 なおもアスランに詰め寄ろうとしたイザークをクルーゼが止める。
「アスランにストライクのパイロットについて口外せぬように命じたのは私だ。それに関しての責めは彼にではなく私にあるのではないかね?」
 穏やかな口調で言葉をつづる彼に、イザークは悔しそうに唇をかみしめた。  相手が他の誰かであれば例え自分よりも上の立場にある相手だろうといくらでも文句を言うことが出来る。
 だが、クルーゼでは駄目だ。
「……ですが、奴はナチュラルに味方をした裏切り者です……」
 それでもイザークは何とかこれだけを口にする。
「戦うことの出来ぬ数十人の民間人の命を人質に取られた場合、君は見捨てることが出来るか?」
 それに対する答えがこれだった。
「地球降下後に関しては、別の要因で縛られている……と考えるのが当然だろう。たとえば、彼の両親の命とかな」
 十分情緒酌量の余地があると判断された、とクルーゼは付け加える。彼だけではなくさらに上の判断である以上、イザークの感情は完全に封じ込められた。
「……アスラン、ストライクのパイロットの身柄に関しては、お前に一任する。彼の容姿を見知っている者はお前だけだからな。他の者はアスランのフォローをするように」
 必要があれば、だが……というと同時にクルーゼは立ち上がった。
「私は他の者たちとの打ち合わせがある。後は自由にするがいい」
 必要があれば動け、と言い残すとクルーゼはそのまま立ち去る。その後ろ姿がドアの向こうに消えた瞬間、四人の口からそれぞれ吐息が漏れた。
「……アスラン……」
 怒りを必死に押し殺している、とわかる口調でイザークが口を開く。
「何だ?」
 アスランにしても何か思うことがあるのだろう。いつもよりも感情がこもっていない口調で言葉を返す。
「ストライクのパイロットについて貴様が知っていることをすべて教えて貰おう!」
 気に入らないが、命令である以上協力をしてやる、とイザークは付け加える。
 その言葉をどこまで信用していいものか、とアスランは心の中で呟いた。イザークが自分のプライドを傷つけた者をそう簡単に許せるわけがないことをアスランは嫌と言うほど知っていた。
 まして、キラは彼の顔に傷を付けたのだ。なおさらだろう。
「そうですね。せめて容貌だけでもわからないと……万が一町中ですれ違ってもわかりませんね」
 そんな二人の間の空気を和らげようと言うのか、ニコルが口を挟んできた。
「そうだな。ともかく、顔と名前ぐらいは教えてもらわねぇと」
 何をするにしてもな、と付け加えるディアッカもアスランには気に入らない。だが、最低限の情報ぐらいは与えておかないと何をしでかすかわからないのもまた事実だ。万が一、地上で出会った場合にキラを殺されても困る、とアスランは自分を納得させる。
 ため息と共にアスランは知覚にあった端末を操作した。そして、一枚の写真をモニターに表示させる。それはラクスが連れていたハロの中に残されていた現在のキラの姿だった。
「彼がストライクのパイロット、キラ・ヤマトだ。本人は第一世代だと思っている。ストライクに乗る前は……ヘリオポリスの工業カレッジの一学生だったことは確認してある」
 Gに乗ったのは、突発的な事態だったらしい……とアスランは出来るだけ感情を出さない口調で説明をする。
「……ディアッカ……」
「あぁ。あいつだな」
 その瞬間、ニコルとディアッカがこんなセリフを口にする。
「キラを知っているのか?」
 だが、いったいどこで……とアスランは問いかけかけてやめた。
「キラさんとおっしゃるのですね、その方は……隊長の命令でOZ−2へ潜入した際にお会いしたのですが……」
 二言三言会話を交わしたが、どこか様子がおかしかったのだ、とニコルは続けた。
「……って事は、あいつに監視されてたって事だな」
「でしょうね。道理で様子がおかしかったと」
 その後、連邦の軍人らしき相手に呼び戻されて連れて行かれた、と二人は付け加える。
「厄介だな……常に監視がついているとしたら、どうやって接触をするか」
 キラの立場から自由に行動が出来るとは思っていなかったが、常に軍人が側にいるとなるとその身柄を無事に連れて帰ることは難しいとしか言いようがない。
 かといって、ストライクごと拿捕してくるのはさらに厄介だ。
 さて、どうするか……とアスランだけではなく他の三人も考え込んでしまう。
「ともかく、足つきがどこかに寄港してくれないと、忍び込むことも出来ないな……」
「……落とさない程度に攻撃をして、どこかに追い込むか」
「それがいいでしょうね」
 これからの行動を相談しつつも、自分達の会話に加わることなく何か考え込んでいるイザークの存在がアスランには気がかりだった……


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最遊釈厄伝