「……ごめんなさい……」
 フラガの腕の中で、キラはこう呟く。
「何を謝っているんだ、坊主は?」
 そんな彼に向かって、フラガは優しい笑みを返す。それだけでは足りないと思ったのか。彼はそっと頬に唇を押し当ててきた。
「イアンが言っていたぞ。キラのおかげでさっさと離脱をする判断ができた、とな」
 それに、そのおかげで余計な犠牲を増やさないですんだ……とも彼は囁いてくる。だから、何も謝ることはないのだ……とも。
「でも……勝手に……」
 人前に出るなと言われていたのに……とキラは呟くように付け加えた。
「そんなことか……艦を失うより、些細なことだろう?」
 一番重要なのは生き残ることだ。フラガはこう言って笑う。その表情も言葉も、あの時と変わらない。
「まぁ……キラがおしおきをして欲しい……って言うなら、俺としてはやぶさかではないけど、な」
「ムウさん?」
 彼の言葉に、キラは思わず彼の顔を見つめてしまう。
「付き合ってくれるって、言ったよな?」
 くすり、と笑いを漏らすとフラガの手がゆっくりとキラの体をなでる。それがどのような意図を持った動きなのか、キラには十分わかっていた。
「……ムウ、さん……」
 だが、今でいいのか……とも思う。
 彼にはまだやるべき事があるのではないか、とも。それが指揮官の役目だろうと言うこともわかっているつもりだった。
「ちょーっと、熱を発散しきれなくてな……」
 この言葉の裏に、何か別の意味が隠されているような気がするのはキラの錯覚だろうか。だが、彼がそうしたいというのであれば、自分は拒むつもりはない。
「……シャワー……浴びさせてください……」
 だが、せめて汗だけは流させて欲しい、とキラは思う。
「俺は、気にしないぞ」
 だが、フラガはキラの体を抱きしめている腕を解いてくれそうにない。それどころか、逆にきつく抱きしめてきた。
「……でも……お願いですから……」
 だからといって、このままではいやだ……とキラは思う。
「ったく……本当にキラは」
 可愛いよな……とフラガはのどの奥で笑いを漏らす。同時に、そのままキラを抱えて立ち上がった。
「ムウさん?」
 何を、とキラは思う。
「シャワー浴びたいんだろう? 付き合ってやるよ」
 ちゃんと洗ってやるから……と付け加える彼に、キラはだだをこねるべきではなかったのか……と心の中で呟く。だが、それでも相手が彼ならばかまわない、とも思う。
 そう。
 相手がフラガであれば何をされてもかまわないのだ。
 それは、アークエンジェルで再会してから抱いていた気持ちのようでもあるし、三度であったときからのもののようでもある。
 しかし、そんなことはどうでもいい。
「……ムウさん……」
 彼の側にいられるのであれば、それだけでいいのだ。
「甘えん坊だな、キラは」
 フラガが満足そうな笑いを漏らしながら、シャワーブースのドアを開ける。
「しかし、偉くなってありがたいのは……使えるスペースが広くなったことだよな」
 その前で彼は喜々としてキラの服をはぎ取り始めた。
「……ムウさん、自分で……」
「いいから、黙ってなさい。俺の楽しみを取らないの」
 やっぱり、下準備からしっかりとな……と彼は付け加えるとキラの服をいすに向かって放り投げる。そして、まずはキラをシャワーブースへと押し込んだ。そして、キラに見せつけるように自分もまた服を脱いでいく。
 明るい室内では、その体に刻まれた傷がはっきりと見えてしまった。
「……もう、何度も見ているだろうが」
 おそらく、無意識に眉を寄せてしまっていたのだろう。フラガはキラに向かって苦笑を向けてくる。
「そう、ですけど……」
 それでも、見ているのが辛いのだ……とキラは思う。あのころの彼の肌を覚えているからかもしれない。
「これは、お前達を守れた勲章だろう?」
 俺のな……といいながらフラガはキラを抱きしめてくる。何も遮るものもない状況で、彼の鼓動がはっきりとキラの耳に届く。それをもっとしっかりと感じたくて、キラはそっと彼の胸に手を当てる。
「そして、お前は俺へのご褒美だしな」
 だから、と言いながら、フラガの指がゆっくりとキラのあごを持ち上げた。そして、そのまま唇を重ねてくる。
「誰がなんと言おうと、俺はお前を手放す気はないからな」
 触れあう瞬間、彼はこう囁いてきた。
「……僕は……ムウさんの側が、一番いいです……」
 一瞬、脳裏を幼なじみや双子の片割れ、そして友人達の面影がよぎる。それでも、自分には彼等よりもフラガの存在が重いのだ。
 そう呟きながら、キラはそっと彼の首に自分の腕を絡めた。




次回は裏です(苦笑)