小さな約束

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 日記は母が二人を妊娠したところから始まっていた。
 正確に言えば、母の胎内にいたのはカガリだけだ。コーディネイトをされたキラの受精卵は母の体調の関係で戻されることが出来なかったらしい。
 代わりに開発が最終段階にさしかかっていた人工子宮で育てられることになった。
 母の胎内にいるカガリも、人工子宮に入れられたキラも、どちらも大切なわが子だ。だから、二人の成長を慎重に見守っていたのだ。
 そしてカガリが生まれた日、キラもまた人工子宮から取り出されたのだという。
 日記に綴られていたのは、それまでの日々の二人の成長の記録。そして、それに一喜一憂する両親の心情だった。
 そこには、嘘偽りはないだろう。
 少なくとも、母の心情には、だ。
 しかし、とキラは思う。
「どうして、そのまま冷凍保存しなかったのかな」
 一年なり二年待てば、改めて妊娠することが可能だったのではないか。
 それに答えをくれたのはカナードだった。
「……聞いた話では、ヴィアさん――お前たちの母親だ――が次に妊娠できる可能性が限りなくゼロに近かったからだそうだ。女性特有の病気が見つかったらしい」
 つまり、キラがこの世界に生まれてこない可能性があったのだ、と彼は続ける。
「却下!」
 カガリが即座にこう叫ぶ。
「お前がいないなんて考えられん!」
 さらに彼女が続けた言葉にレイも大きく頷いている。
「まぁ、そうでなかったとしても、あの人達はお前を眠らせるなんてしなかっただろうが」
 苦笑とともにカナードが言葉を綴った。
「お前は外見は母親にそっくりにコーディネイトされたからな。ヴィアさんにベタ惚れだったユーレンさんが放っておくわけない」
 さらに彼はこう付け加える。
「それに、俺も人工子宮から生まれた人間だしな。おそらく、レイもそうだろう?」
 この言葉にレイも頷いて見せた。
「ギルが預かっていたらしい。俺の受精卵はラウがキラと一緒にプラントに連れて行ってくれたそうだ」
 そして、カナードの言葉を肯定する。
「でも、どうして私達の実の両親は殺されたんだ?」
 そして、自分達は離ればなれにならなければならなかったのか。カガリはそう言う。
「人工子宮のデーターを公表されると困る連中がいたからだ。あれを使えば第二世代同士でも子供が出来るからな」
 今のままであればコーディネイターの人口をナチュラルの都合でコントロールできるかもしれない。しかし、人工子宮が完成してしまえばそれも出来なくなってしまう。そう考えたのだとか。
「せめて、人工子宮を自分達が掌握していれば、と考えたんだろうな。データーと機材を全てよこせと言っていた」
 それはよく覚えている。カナードはそう続けた。
「だからウズミ様達に相談をしていたそうなんだが、対策を取る前に襲撃を受けたんだ」
 その時の記憶は、自分も混乱していたせいではっきりとしていない。彼はそう締めくくった。
 それは当然だろうとキラも思う。
 自分達の年齢差を考えればその時のカナードは三歳ぐらいだったのではないか。明確に覚えている方がおかしい。
「……セイランか」
 カガリが小さな声でそう吐き捨てる。
「どこまで関与しているか、それはわからないがな」
 カナードも言外にそれを認めた。
「ともかく、だ。キラ、お前は一人ではない。それはわかるな?」
 カナードの言葉にキラは小さく頷く。
「ならば、いい。後はこれからのことだ」
 カナードはそう言ってくる。
「これから?」
「どういう意味ですか?」
 キラとカガリは同時にそう問いかけた。
「人工子宮のデーターをプラントにも渡す。その時、お前たちの力が必要だからだ」
 それが説明になるとは思えない。しかし、カナードからすればそれで十分な説明なのだろう。それ以上、口を開こうとはしない。
「とりあえず、みんなに顔を見せに行きましょう?」
 代わりにレイがそう言ってくる。
「そう、だね」
 確かにそれは優先すべきことだろう。
「他のあれこれは、その後に考えてもいいじゃないですか」
 そう付け加える彼にキラは「そうだね」と小さな声で言い返した。

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最遊釈厄伝