小さな約束
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「こうなれば、読むしかないな」
大人達が出て行った後で、カガリはこう言う。
「……そう、だね」
何かを予感していたのか。キラが硬い表情のまま頷いている。
「ラクス様。俺たちも一時的に部屋から出ましょう」
ミゲルがそう提案をした。
「いやです、と言いたいところですが、そうした方がいいでしょうね」
知らなければ今まで通りにつきあえる。ラクスはそう付け加える。
「……ごめんね、ラクス」
そんな彼女に向かってキラが声をかけた。
「気にしないでください。話せると思えると判断した内容だけでかまいません。後で教えてくださいませ」
それにラクスは微笑むとこう言い返してくる。
「うん……話せるようなら、ちゃんと話すから」
キラはそう言うと首を縦に振って見せた。
「無理はするなよ。そんなの聞かなくても俺たちはお前の友だちだからな」
ミゲルがそんなキラの髪をかき混ぜるようになでる。あれでは後が大変だろう、とカガリは思う。
しかし、本人は嬉しそうな表情をしているし、レイも止めようとはしない。
つまり、あれがあの二人の距離なのだろう。
それが少しうらやましい、と思う。
「では、カガリ。あなたもあまり無理をなさらないでくださいね?」
ラクスがそう言って微笑みかけてくる。
「わかっている」
それでも気にかけてくれる存在がいるではないか。心の中でカガリはそう付け加えた。
ついでに、きょうだいも出来たし。きょうだいならば何があっても縁が切れるわけじゃないし、と心の中で付け加えた。。
「ここにはレイもカナードさんもいてくれるからな」
自分達だけではない。だから大丈夫だ、とカガリは笑い返す。
「でも、困ったことが遠慮なく相談してくださいませ。約束ですわよ?」
ラクスはそう言うとそっとカガリの頬に触れてくる。
「……あぁ、わかった」
そう言って頷いて見せれは、ラクスは微笑み返してきた。
「では、また後ほど。アスラン達が追いかけてきても対処は任せておいてくださいませ」
言葉とともに彼女は体の向きを変える。そして、そのまま歩き出す。
「何、さらりと爆弾発言してくれているんだよ、お前は!」
そんな彼女の背中に向かってカガリは思わずこう怒鳴りつけてしまった。
「……ラクス様、今のは……」
ミゲルが眉間に手を当てながらため息をついてくる。
「アスランならやりかねませんわ。もっとも、その前にイザーク様達が止めるでしょうけど」
ラクスは微笑みながらそう言い返す。
「それに、これでカガリの緊張も解けたようですし……」
キラの方はミゲルの行動でダイブ気持ちがほぐれたようだが、彼女は続ける。
「……そうだったんですか?」
「えぇ。今日ほど、わたくし達がキラの幼なじみでよかったと思いましたわ」
ラクスはそう続けた。
「何があろうと、キラが何者であろうとも、わたくしが守れますもの」
そうでしょう? と問いかける。
「当然ですね。だから、隊長も俺を連れて来たんでしょうし」
ただ、とミゲルはため息をついた。
「あいつは俺たちに話してくれると思いますか?」
「多分、大丈夫ですわ。わたくし達がともに過ごした時間は簡単になくなるものではありませんもの」
そうでしょう、と聞き返す。
「……そうですね」
彼は少しだけほっとしたような表情を作りながら頷く。
「後は、キラ達が出てくるまで待ちましょう」
言葉とともにラクスは彼らがいる部屋のドアを振り向いた。