小さな約束
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こちらに来るのはラウとギルバートだけだと思っていた。
「……ラクス?」
しかし、彼らの後ろにここで会うと思っていなかった人物を見つけて、キラは目を丸くしてしまう。
「それに、ミゲルも……どうしてここに……」
キラの言葉に彼は苦笑を浮かべる。
「隊長に拉致されて連れてこられたんだよ」
ため息とともにミゲルは言い返して来た。
「事前に話を聞いていれば暴れなかったものを」
さらに彼はこう付け加える。
「どこで誰が聞いているかわからないからね」
ラウが苦笑とともに言い訳の言葉を口にした。
「確かに。アスランなどに知られたらどうなっていたことか」
ラクスがそんな彼を擁護するようにこう言う。
「……確かに、そんなことになれば厄介どころではないの」
ミナがそう言って頷く。
「我らはあの男を信用しておらぬ故」
さらに彼女はそう続ける。
「ここでの話し合いは信用している者達だけで行いたいからな」
つまり、ミゲルとラクスはミナに認められていると言うことか。キラはそう判断する。
「それほど厄介な話なのですか?」
カガリが顔をしかめながら問いかけた。
「厄介、と言うのとは違うよ、カガリ姫」
ギルバートがそう言う。
「君たち二人の事情はそう難しくはない。難しいと言えば、キラが無事にこの世界に生まれ出た技術の方だろうね」
もっとも、と彼は続ける。
「それ自体は確立されつつあるものだった。十六年前の時点で九割弱の成功率を誇っていたものだ」
しかし、とギルバートは顔をしかめた。
「それを独占しようとしたものがいたのだよ。もちろん、君たちのご両親はそれに反対した」
「だから、冤罪をかぶせられて殺された」
不意に別の声が割り込んでくる。
「フラガさん?」
何故彼がそれを知っているのだろうか。そう思いながらキラは彼へと視線を向ける。
「……まだ説明をしていなかったのか?」
あきれたようにラウがそう言う。
「ラウさん?」
「その男は私の兄だ。カガリを連れてオーブに行ったのはその男だよ」
ナチュラルだが、と彼は続けた。
「ついでに言えば、カガリをウズミ殿に預けたあと、行方不明になっていたがね。まさか地球軍に入っているとは思わなかったよ」
あきれたように彼は付け加える。
「手っ取り早く連中に近づけるかと思っただけだろうが」
即座にムウが言い返した。
「一応、マルキオ様には許可をもらったぞ」
彼の言葉にラウが忌々しそうな表情を作る。
「だからと言って、十年以上も連絡をよこさないのは別問題だと思うぞ」
「確かにの。お前があちらにいるとわかっていれば、いろいろと先手を打てたものを」
ミナがため息とともにそう告げた。
「姉上のおっしゃる通りだ。こき使えたものを」
さらにギナもそう言って頷く。
「だから言いたくなかったんだろうが!」
本気で嫌そうな表情でムウが言葉を吐き出す。
「ともかく、だ。お前たちはご両親に望まれて生まれた。何度のろけられたか、数え切れないほどだぞ」
だが、すぐに表情を引き締めると彼はこう言ってくる。
「だから、怖がらずにまずは日記を読んでみろ。その上で疑問があるなら、できる限り答えてやる」
彼の言葉にどうしようかとキラはカガリへと視線を向けた。そうすれば、彼女も同じような表情でこちらを見つめている。
「とりあえず、考える時間が必要かな?」
ギルバートがそう言ってくれて少しほっとしたのは事実だ。
「……カガリ、キラ。ここにいる人間は皆、お前たちの味方だ。それだけは忘れるな」
ミナのこの言葉にキラはただ頷くしか出来なかった。