小さな約束
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ウズミの話を聞いた日から、キラ達の生活は特に変わっていない。ただ、カガリと二人だけになると微妙な空気が生まれることがある程度だ。
「……どうして、僕たちは別々に育てられたのかな」
キラはこう呟く。
「やっぱり、僕がコーディネイターだからかな」
コーディネイターとナチュラルの双子と言うだけで珍しい。だが、だからと言って二人を引き離す必要があったのだろうか。
「……どうだろうな」
ため息とともにカガリが言い返して来る。
「お父様達がそう判断したのなら、そうすべき理由があったのだろうが」
彼女はそこまで口にすると、カップへと手を伸ばす。
「ただ、それが何なのか……判断できる材料が少ない」
いや、皆無だと言うべきか。
「……やっぱり、ラウさん達に話を聞かないと……」
ミナやギナでもいいのかもしれない。しかし、二人とも今、凄く忙しいのだ。それにともなって、カナードも一日に一度、自分達の前に顔を出すのが精一杯らしい。
そんな忙しい彼らを捕まえて知っているのかどうかわからないことを聞くのは申し訳ないと思う。
「でも、次にいつ会えるか、わからないんだよね」
二人ともプラントで重要な立場にいる者達だ。自分が『会いたい』と言っても、すぐに会いに来られるはずがない。
「せめて、通信だけでもつなげてもらえないか、聞いてみようかな」
キラがそう呟いた時だ。
「お菓子、もらってきました」
その言葉とともにレイが戻ってくる。
「それと、キラさん」
「何?」
首をかしげながらキラが聞き返す。
「ラウとギルがこちらに来るそうです」
そうすれば、レイは即座にこう言い返してくる。
「……ラウさんとギルさんが?」
なんで、と付け加えた。
「仕事のついでだそうです。ギルは交渉団の一員、ラウはその護衛だとか」
確かに、それならば納得できる。納得できるが今ひとつ釈然としない。
「いったい、何人脅かしたんだ?」
同じことを考えていたのか。カガリがこう呟いた。
「……あるいは、ラクス様に話をしたか、ですね」
「なんで、ラクス?」
いきなり親友の名前が出てきてキラは目を丸くする。
「あの方の人脈は広いですからね。それを使えばあの二人を使節団の中に潜り込ませるくらい出来るのでは? 無駄に優秀ですしね、二人とも」
「まぁ、それは否定しないけど」
確かに、あの二人はものすごく優秀だと思う。しかし、これは公私混同にならないのか。
「あの二人にやめられるよりマシだと判断したんでしょうね」
あの二人はキラと話をするためならば平然と仕事を辞めるだろう。そして、ミナ達であればそんな二人を放っておくはずがない。
だから、再就職には困らないだろう。レイは笑いながらそう付け加える。
「それって、何か違わない?」
「思い切り違うな」
キラの言葉にカガリも頷いている。
「でも、そうなってくれたらオーブとしては思い切り助かるが」
だが、その後に続けられた言葉は予想とは違うものだった。
「カガリ……」
「いいだろう。オーブはいつでも人材不足なんだから」
カガリが胸を張ってそう言う。
「さすがはアスハの後継だね」
苦笑とともにキラはそう言い返すことしか出来なかった。