小さな約束

BACK | NEXT | TOP

  143  



「ウズミ殿も余計な事をしてくれる」
 ラウはそう言いながら仮面を外す。
「そう言うな。あちらもこれから忙しいのだ。それに……まだ万が一のことがある可能性は否定できない」
 それにギルバートがこう言い返してくる。
「それで?」
 まだ他に何かあるのではないか、とラウは言外に次の言葉を促す。
「キラは、預けられた日記をまだ呼んでいないそうだよ」
 それが何なのか、確認しなくてもわかる。
「あの人のか?」
 それでも問いかけてしまったのは自分の弱さの表れなのだろうか。ラウはそう心の中で呟く。
「それ以外にないだろう?」
「……確かに」
 カガリの日記をウズミがキラに渡すはずがない。それはわかっていても、確認せずにはいられなかったのだ。
「もっとも、キラはまだ中を読んでいないらしい」
「何故?」
「我々から何も聞いていないから、だそうだ。こちらはレイが連絡をして来た」
 あの子は自分の役目をきちんと果たしているらしい。
「しかし、幼年学校に通うようになってからすぐに疑問を持っていたとは……気づかなかったよ」
 保護者失格だね、とギルバートは続ける。
「そんなに前からとは……私も気づかなかったよ」
 ラウもそう言ってため息をつく。
「だが、考えてみればうちには女性の影も形もないからね。おかしいと思って当然だろう」
 そう言うと、ラウはギルバートへと視線を向ける。
「君がもう少しそちら方面でまめならばごまかせたものを」
「無理を言うね。そう言う君はどうなんだい?」
 即座にこう聞き返された。
「本国勤務ならばともかく、戦艦勤務ではね。女性と知り合う機会もないよ」
 苦笑とともにそう言い返す。
「それに、本国に残っている女性の多くは相手が決まっているしね」
 さらに言葉を重ねる。
「確かにね」
 それに関してはギルバートも否定しない。
「君たちの相手もそうそうに決めたいと言われていたのだがね。データーを渡すわけにはいかないだろう? だから、サハクの意向もあると言って保留しておいたのだよ」
 ラウはもちろん、キラも人気だったそうだ。
「……あの子の性別の公表の問題もあったね、そう言えば」
 ラウはそう言ってため息をつく。
「今はいいが、そろそろ隠しておくのはきつくなる時期だからね」
 もっとも、その後はいろいろと厄介なことになるだろう。
 しかし、だ。
「いろいろと話し合わないといけないわけだね、つまり」
「時期が来た、と言うことだろうね」
 戦争も終わった。
 とりあえず、厄介者の排除も出来ている。
 そして、自分達は誰もかけていない。
 真実を話すにはいいタイミングだろう。
「何とかして、あちらに向かわないとね」
「それも、出来れば二人そろって、だ」
 ラウの言葉にギルバートもこう続ける。
「それに関しては私の方でも手を打ってみよう」
 彼はさらに言葉を重ねた。
「お願いしよう。私の方では動けないこともあるからな」
「任されよう」
 ラウの言葉にギルバートはそう言って頷く。
「……しかし、これからが正念場だね」
「そうだな」
 気を引き締めなければいけないだろう。そう呟くと、ラウは深く息を吐き出した。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝