小さな約束
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「ウズミ殿も余計な事をしてくれる」
ラウはそう言いながら仮面を外す。
「そう言うな。あちらもこれから忙しいのだ。それに……まだ万が一のことがある可能性は否定できない」
それにギルバートがこう言い返してくる。
「それで?」
まだ他に何かあるのではないか、とラウは言外に次の言葉を促す。
「キラは、預けられた日記をまだ呼んでいないそうだよ」
それが何なのか、確認しなくてもわかる。
「あの人のか?」
それでも問いかけてしまったのは自分の弱さの表れなのだろうか。ラウはそう心の中で呟く。
「それ以外にないだろう?」
「……確かに」
カガリの日記をウズミがキラに渡すはずがない。それはわかっていても、確認せずにはいられなかったのだ。
「もっとも、キラはまだ中を読んでいないらしい」
「何故?」
「我々から何も聞いていないから、だそうだ。こちらはレイが連絡をして来た」
あの子は自分の役目をきちんと果たしているらしい。
「しかし、幼年学校に通うようになってからすぐに疑問を持っていたとは……気づかなかったよ」
保護者失格だね、とギルバートは続ける。
「そんなに前からとは……私も気づかなかったよ」
ラウもそう言ってため息をつく。
「だが、考えてみればうちには女性の影も形もないからね。おかしいと思って当然だろう」
そう言うと、ラウはギルバートへと視線を向ける。
「君がもう少しそちら方面でまめならばごまかせたものを」
「無理を言うね。そう言う君はどうなんだい?」
即座にこう聞き返された。
「本国勤務ならばともかく、戦艦勤務ではね。女性と知り合う機会もないよ」
苦笑とともにそう言い返す。
「それに、本国に残っている女性の多くは相手が決まっているしね」
さらに言葉を重ねる。
「確かにね」
それに関してはギルバートも否定しない。
「君たちの相手もそうそうに決めたいと言われていたのだがね。データーを渡すわけにはいかないだろう? だから、サハクの意向もあると言って保留しておいたのだよ」
ラウはもちろん、キラも人気だったそうだ。
「……あの子の性別の公表の問題もあったね、そう言えば」
ラウはそう言ってため息をつく。
「今はいいが、そろそろ隠しておくのはきつくなる時期だからね」
もっとも、その後はいろいろと厄介なことになるだろう。
しかし、だ。
「いろいろと話し合わないといけないわけだね、つまり」
「時期が来た、と言うことだろうね」
戦争も終わった。
とりあえず、厄介者の排除も出来ている。
そして、自分達は誰もかけていない。
真実を話すにはいいタイミングだろう。
「何とかして、あちらに向かわないとね」
「それも、出来れば二人そろって、だ」
ラウの言葉にギルバートもこう続ける。
「それに関しては私の方でも手を打ってみよう」
彼はさらに言葉を重ねた。
「お願いしよう。私の方では動けないこともあるからな」
「任されよう」
ラウの言葉にギルバートはそう言って頷く。
「……しかし、これからが正念場だね」
「そうだな」
気を引き締めなければいけないだろう。そう呟くと、ラウは深く息を吐き出した。