小さな約束
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カガリとともにミナに呼ばれた。
「……なんだろうな」
「僕に聞かれても……プラントに帰るスケジュールの説明かな?」
「だとするならありがたいです。そろそろギルが爆発しそうですから」
そんな会話を交わしながらミナの執務室へと向かう。
「失礼します、ミナ様」
カガリが端末を使って中にいる彼女に声をかければ巣に許可が出た。
「失礼します」
言葉とともに二人はほぼ同時にドアをくぐる。しかし、カガリの足が縫い止められたように止まった。
「お、父様?」
まさか、と彼女は呟く。
「久しぶりだな、カガリ。元気そうで何よりだ」
それをさらりと受け流せるあたり、ウズミは大人なのだろうか。
「本当に、お父様?」
でも、どうして……とカガリはまだ信じられないといった表情で呟いている。
「……一応、本土でやるべき事は終わらせたからな。お前の顔を見に来たのだが……来なかった方がよかったか、この家出娘」
「そんなことはないです。突然で驚いただけで……」
カガリが慌てていいわけを始める。その様子があまりにもてんぱっていて、かわいそうに思えてきた。
「事前に連絡をいただければ、ここまで驚かなかったです」
とりあえず、とキラもカガリをフォローするようにそう言う。
「……そうか。てっきりまた、何か怒られるようなことをしたのかと思ったが」
この言葉にカガリはものすごい勢いで首を横に振っている。
「それは間違いないぞ、ウズミ」
ミナも笑いながら言葉を口にした。
「それよりもよいのか? あまり時間がないのであろう?」
さらに彼女はこう続ける。どうやら、ウズミはない時間を無理矢理作ってこちらに来たようだ。
「そうだな」
苦笑とともにウズミが同意をする。
そのまま彼は視線をキラとカガリに向けた。
「二人に話しておかなければいけないことがある」
「なんでしょうか」
ウズミの言葉にカガリが居住まいを正す。
「まずは、カガリ。お前は私の実の娘ではない。私達の従妹の子だ」
その言葉にカガリは小さく頷く。
「どうやら聞いていたようだな」
ウズミはそう呟くとジャケットの胸元へ手を入れる。そして、一枚のカードらしきものを取り出すと二人へと差し出して来る。
それは、一枚の写真だった。
「そして、お前とキラ君は、双子のきょうだいだ」
キラによく似た女性が金髪と栗色の髪の赤ん坊を両手で抱きかかえている姿が写し出されている。
それが自分とカガリなのだろうか、とキラは心の中で呟く。
「お父様……」
「お前たちの実のご両親は遺伝子関係の研究者だった。その研究を独り占めしたい者達がいたのだよ」
ミナがそう言ってくる。
「だが、彼らはそれを自分達だけで独占しようと考えてはいなかった。コーディネイターにとって、それは重要なものでもあったからな」
それを盾に、プラントの者達をまた支配下に置きたかったのだろう。ウズミはそう付け加える。
「それに反対したが故に、彼らは狙われた。我々が動いたときにはもう遅かったのだよ。お前たちを救い出すだけで精一杯だった」
彼は悔しげな声音でそう言った。
「彼らの研究データーはある場所に隠されている。それを取り出すにはお前たちの生体データーが必要だ。だからこそ、我々は、お前たちを別々に育てることにした」
キラはプラントでカガリはオーブで、普通の子供のように、と彼は締めくくる。
「どうして、今、それを僕たちに?」
彼の言葉をうまく飲み込めない。それでも、とキラは聞き返す。
「戦争が終わったからだ」
それに対する答えは一言だった。
「平和になった今ならこそ、それは重要になってくる。他の誰かの口から聞かされるよりも、私の口から話した方がいいだろうと思ったのだよ」
確かにそうかもしれない。
でも、とキラは思う。
「すぐには受け入れられないだろう。だが、お前たちは一人ではない。それだけは覚えておきなさい」
その言葉にキラは頷くしか出来ない。
「……お父様……」
「今まで培ってきた絆が消えるわけではない。だから、安心するがいい」
ミナがそう言ってくる。
「……はい」
そんなキラの手を、レイがしっかりと握りしめてくれた。