小さな約束

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 終戦のための話し合いに入ったと言うことはラクスの耳にも届いていた。
「とりあえず、これで無駄に血を流すことはなくなりますのね」
 微笑みながらそう告げる。
「でも、これからが本番ですわ」
 言葉とともに視線を移す。
「そうでしょう、デュランダルさま」
「……えぇ」
 苦笑とともにギルバートが頷いて見せる。
「我々にとっては、これからが本番です。戦争がなければ、もっと慎重に根回しが出来たのですが……」
 残念だ、と彼は続けた。
「だから、デュランダルさまはわたくしに話されたのではありませんか?」
「否定はしませんよ、ラクス様」
 ためらいもなく彼はそう言い返してくる。
「もっとも、あなたが持っておいでの影響力は予想外でしたが」
「とおっしゃいますと?」
」我々にとって必要だったのは、あの子の味方なってくれる存在でしたからね」
 自分達以外の、とギルバートは続けた。
「私達は最初からあの子の味方です。しかし、それはあの子の両親の願いもあったからです」
 自分達――いや自分は彼女の両親に恩義がある。だから、キラに味方をしていると思われかねないくらいに、だ。
 その事実をキラが知ったならばどう思うだろうか。
「私達の愛情をあの子が疑うとは思いませんが、それでも微妙なしこりが残るでしょうね」
 彼のこの言葉にラクスは首をかしげる。
「皆様はキラがその方々の子供だから大切にされてきましたの?」
 そのまま彼女はこう問いかけた。
「まさか」
 即座にギルバートは言い返して来る。
「確かにあの子を引き取った理由は彼らに頼まれたからかもしれません。でも、あの子を大切に思ったのはあの子があの子だからですよ」
「ならば、キラ本人にもそうおっしゃればいいでしょう? 本心からの言葉だとキラが気づかないはずがないでしょう?」
 無駄な心配をしなくてもいいのではないか。言外にそう告げる。
「キラを疑ってはいませんが……あの子が知らずに背負っているものが問題なのですよ、ラクス様」
「……それについて、詳しく教えていただけますか?」
 彼らが抱えている秘密がなんなのか、自分は詳しく知らない。
 いや、キラも知らないらしい。
 だから、彼らは自分からキラに伝わることを恐れて教えなかったのだろうと推測できる。
 しかし、これからはそう言うわけにはいかないのではないか。
「もちろんです」
 そう言ってギルバートは頷く。
「おそらく、キラもあちらで伝えられている頃でしょう。」
 ただ、と彼は続けた。
「出来れば、ラクス様はあの子が自分の口で伝えるまで『知らなかった』ことにしていただきたい」
「そうですわね。キラのためにはその方がいいでしょう」
 キラの性格ならば悩むだろう。
 悩んで悩んでそれでも答えが出なければ自分に相談してくれるはずだ。その時まで自分は知らなかったことにしておくべきだ。ラクスはそう判断する。
「ミゲルにはどう言いましょう」
 おそらくキラよりも先に帰って来るであろう幼なじみの顔を思い出しつつそう呟く。
「彼にはラウが伝えているはずですよ」
 そのために手元に置いていたようなものだ。ギルバートの言葉にラクスは納得する。
「当然、アスランには教えられませんわね」
「えぇ」
 昔に比べればマシになったのかもしれない。それでも、アスランの暴走癖はまだ残っている。
 本人はキラを守ろうとしているのかもしれないが、その言葉が当人を傷つけることがあると気づいていない。
 だから、出来るだけキラから遠ざけておきたいのだ。
「……今日はお父様も戻ってきません。仕事も入っていませんから、時間はたっぷりありますわ」
 今から教えてくれるのでしょう? とラクスは水を向ける。
「もちろんです、ラクス様。ただ、少し専門的な話も入りますが」
「かまいません。わからなければお聞きするなり自分で調べるなりしますわ」
 ラクスの言葉が満足行くものだったのだろう。ギルバートは小さな笑みを漏らす。
「では、説明をさせていただきます」
 そして、ゆっくりと口を開いた。

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最遊釈厄伝