小さな約束

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『やはり、元とはいえ仲間が劣勢なのは見ていて辛いか?』
 ギナがそう問いかけてくる。
「それよりも、これが動かなくなるかもしれないって言う方が怖いがな」
 自分が今乗り込んでいるのはストライクだ。もっとも、OSはナチュラル用の支援システムを組み込まれたものではあるが。
『大丈夫であろう。ジャンク屋が使い込んでいるもののコピーだからの』
 あれと同じレベル以上のパイロットであれば問題はない。ギナはそう断言する。
「……お前、何かやっただろう?」
『あれにアストレイを一機、渡しただけよ。他にも傭兵に一機渡したな』
 自分達とは違う使い方でどのようにOSが成長するか。それを確認したかった。ギナがそう言う。
「……そうかよ」
 用意周到と言うべきなのか。それとも、とムウはため息をつく。
『後はお主が使ってどこまで性能を引き出せるか。それを確認すればよいだけだ』
 ギナの言葉にムウはまたため息をついた。
「はいはい。命を助けられた以上、おとなしく従いますよって……母艦発見だな」
 地球軍にいた頃にたたき込まれた知識の中にあった形状の艦を確認してムウはそう言う。
『どれだ?』
「E7X8Y2にいる奴だ」
 即座に言葉を返す。
『なるほど。普通の輸送艦に見えるが……よく観察すれば差異が認められる』
 ギナがすぐにこう口にする。
 どうやら、彼は地球軍――あるいはザフトもだろうか――の全ての艦艇の特徴を記憶しているらしい。そして、それをこの状況で視認できるのだろう。
「でないと、すぐに狙われるだろう? それらしく振る舞っている艦もいるはずだし」
 どこにいるかまではわからないが、とムウは言い返す。
『それに引っかかっておる者も多いの』
 これだけ情報が交錯していればそれも仕方がないだろう。
「それで? 俺たちは何をするんだ?」
 あれを叩くつもりはなさそうだし、と思いながら問いかけの言葉を投げつける。
『とりあえず、核を阻止すればよい。これ以上の憎しみは必要なかろう』
 軍人同士という意味ではないのはすぐに理解できた。
「二機だけでか?」
 これが自分ではなくカナードならば可能なのかもしれないが、とムウは思う。
『姉上とカナードからあれこれ持たされておる。心配はいるまい』
 むしろ心配だ、と思うのは自分だけか? ムウは心の中でそう呟く。
『キラが作ったあれをカナードが改良したものもあるしの。必要ならば力業で止めるだけよ』
 ならば、さっさとやれ!
 本気でそう言いたい。言いたいが、口にした時点で自分は詰むだろう。
『当面は内密に動く程度よの。ミラージュコロイドは装備されておるからの。もっとも、移動はガス噴射になる』
「……ノーマルスーツと同じと考えればいいわけだ」
 でかいが、とムウは呟く。
『理解が早くてよいの』
 では行くか。その言葉とともにギナが動き出す。
「頼むから、ど真ん中でいきなり動かなくならないでくれよ」
 機体に向かってそう呟くと、ムウもその後を追いかける。
 とりあえず、戦闘にならなければ何とかなるだろう。問題は戦闘が始まった瞬間ではないか。
「こいつを手足のようにつかる前に戦争が終わってくれればいいんだけどな」
 小さな声で呟くと、まだなれない操縦桿を握りなおした。

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最遊釈厄伝