小さな約束

BACK | NEXT | TOP

  135  



 現状がどうなっているのか。
 ここまで敵味方が入り乱れてしまえば自分では判断できない。
「俺もまだまだってことか」
 悔しげにミゲルは呟く。
「まぁ、全体を見るのは上の人間に任せておくか」
 自分は目の前の敵をたたくだけだ。すぐにそう思い直す。
「生き残ることが最優先だし」
 別に手柄は立てなくてもいい。生き残ってキラ達のそばに戻れればそれでいいのだ。
 間違いなく、ラウもそれを望んでいるはず。
「隊長に目をつけられたときから決まってたんだろうな」
 あるいはキラに出会ったときか。
 もっとも、その後のことは自分の選択の結果だ。だから、文句はない。
「と言うわけで、少しでも多く敵をたたいておくか」
 小さなことからこつこつと、と笑いながら呟く。
「他の連中のフォローは出来ればやる、と」
 そう呟きながら周囲を見回す。
「って……こういうときにあれを見つけるとは。ついているのかいないのか」
 厄介だな、と付けくわえると同時に三機をにらみつける。
「見つけた以上は仕方がないか」
 あの背後にいるのは地球軍の中でも重要な役目を持った艦なのだろう。
「これだけ混乱していれば、あいつらの連携も乱れるかもしれないしな」
 いざとなれば敵艦を盾にしよう。
 そう判断すると、敵にビームライフルの銃口を向けた。

 何かが壊れる音がした。
「……あっ」
 一瞬遅れて、キラが小さな声を上げる。
「大丈夫か?」
 そう言いながらカナードは近づく。そして、破片を拾おうとしていたキラの手を止めた。
「カナードさん?」
「今、ロボットが来る。放っておいていい」
 けがをするだろう、と彼は続ける。
「……はい」
「それにしても珍しいな。寝不足か?」
 カガリがうるさいか、とカナードは問いかける。
「違います。何か落ち着かなくて……」
 理由はわからないが、とキラが続けた。
「朝からミナさま達の顔を見ていないからかなぁ? それとも、レイが帰ってこないから?」
 どちらだろう、と呟きながらキラは首をひねっている。
 これは失敗だっただろうか。
 せめてレイだけでもキラのそばに置いておくべきだった。だが今更言っても仕方がないだろう。
「レイはカガリのお守りだ。あいつの方が抑制力が高いからな」
 とりあえず、とこう言っておく。
「年下の前では無理はしないしわがままも言わないからな」
 苦笑とともに付け加える。
「会議があってな。レイならばモニターに映らない場所にいられる」
「……本人の前でそれを言うと怒ると思いますけど?」
「気を付けよう」
 身長が伸び悩んでいることを気にしていたか、とカナードは呟く。
「まぁ、すぐにキラを追い越すだろうが」
「それはあまり嬉しくないです」
 どうやらキラをごまかすことに成功したらしい。だが、こういうことはやはり苦手だ。カナードは苦笑を浮かべると目の前の小さな頭に手を置いた。

BACK | NEXT | TOP


最遊釈厄伝