小さな約束
134
クルーゼ隊およびバルトフェルド隊による背後からの奇襲が功を奏したのか。地球軍の隊列はいきなり乱れた。
それを見逃すことなくヤキンにいた兵士達が猛攻に出る。
その時点で勝敗が見えていたのではないだろうか。
だが、地球軍はまだあきらめていない。
「……まだ、何か隠しているのか?」
この状況をひっくり返せるだけの手段を、とラウは呟く。
「核だけではないと言うことだね」
ならば、と彼は続けた。
「それを使われる前につぶすだけだ」
あるいは旗艦か。
「さて……どこにいるかな?」
そう呟きながら周囲を確認する。そうすればなにやらおかしな動きをしている艦が確認できた。
「あれか」
違ったとしても、その時はその時だ。
そう判断すると即座に機体をそちらに向ける。
「ゼロがいるな……あの男以外にもあれを操れる人間がいたか」
可能性はあったが、と小さく舌打ちをした。
「あれは厄介だな……一対一ならば何とかなるが、複数で来られればまずいかもしれない」
だからと言って無視するわけにもいかないだろう。
いっそのこと、誰かを巻き込むか。
幸いなことに、近くにちょうどよい機影も確認できる。
「彼ならば、万が一のことがあってもキラが悲しむことはないだろうね」
本人が聞いたならば間違いなく怒り狂うであろうセリフをラウは平然と口にした。
「連絡は……必要ないね」
相手が怒り狂ったとしてもこの状況だ。いくらでも言い逃れは出来る。
「と言うわけで、付き合ってもらいましょうか」
バルトフェルド隊長、と呟くとラウはさっさと行動を開始した。
もちろん、巻き込まれた方はたまらない。
「あのやろう!」
見覚えのありすぎるパーソナルカラーの機体をにらみつけながらバルトフェルドはうなるように声を上げる。
「ったく……この状況が有効だと判断できなければ、後ろから撃っているところだぞ」
それをしないのは、現状がザフトにとって有利だと認識できているからだ。
おそらく、自分達が相手をしているのは地球軍のエースクラスのパイロットだろう。それも片手の指以上の数だ。
いくら何でも、この倍以上、同じレベルのパイロットがいるはずがない。
つまり、この連中さえここに引きつけておけば、それだけザフトの勝利が確実になるはずだ。
何よりも、自分が楽しい。
やはり、自分は前線で動いている方が性に合っている。もちろん、隊を指揮することもいやではないが、と心の中だけで付け加えた。
「後でダコスタ君に怒られるかもしれないね」
その時はその時だが、と彼は笑う。
「さて……さっさと沈んでもらおうか」
こう呟くと、目標へ向かって機体を移動させる。
しかし、それを邪魔するようにメビウスが進路に割り込んできた。
「命は大切にするものだろうに」
もっとも、彼らにも譲れない一線があると言うことはわかっている。
「残念だよ」
その言葉とともにバルトフェルドは照準をロックした。
次の瞬間、目の前の機体が光へと変化する。
その脇を彼の彼の機体が通り過ぎていった。