小さな約束
133
戦端を開いたのはザフトの方からだった。
「……これ以上、地球軍を本国に近づけるな!」
ザフトのパイロット達は誰もがその思いのまま戦場へと向かっていく。
軍人への道を選んだ以上、この戦いで自分達の命が潰える可能性はある。家族もそれは覚悟しているだろう。
もし、そうなったとしても、一人でも多くの同胞の命が救えるならばかまわない。
そう考えながら、彼らは引き金を引いていた。
もちろん、ユニウスセブンで身内をなくした者達はそれに復讐も上乗せしていたが。
だが、地球軍の抵抗も激しい。
それは当然だろう。彼らにしてもこの戦いに勝たなければいけない理由があるのだ。
ここまで来れば、後はお互いの理念がどれだけ強いか。それだけだろう。
数では地球軍が有利だ。
しかし、火力と機動力ではザフトが有利だと言えるだろう。
そのせいだろうか。未だに膠着状態を崩せない。
何か一手あればこの状況を崩せるのに。
そうすればこの戦いにも終止符を打てるかもしれない。
誰もがそう考えていた。
「さて……これが最後の戦いになるかどうか。それは君たち次第だな」
珍しくもパイロットスーツに身を包んだラウがそう言ってくる。
「隊長も出撃されるのですか?」
ニコルがそう問いかけてきた。
「もちろんだ」
それがどうかしたのか、と彼が言外に問いかけてくる。
「それだけ重要だってことだろう」
ミゲルが苦笑とともにそう告げた。
「と言うことで、おれはお前らのフォローに回れないからな。自力で何とかしろよ」
さらに彼はこう続ける。
「この戦いで死んでみろ。キラにあれこれと恥ずかしいエピソードを聞かせてやるからな」
こう付け加えた瞬間、真っ先に嫌そうな表情を作ったのはアスランだ。
やはりこのセリフは効果があったか。
ナチュラルの嫌がらせも結構威力があるものだ、とミゲルは心の中だけで呟く。
もちろん、これを教えてくれたのはカガリだ。
「あのお姫様も苦労しているんだな」
こんな手段を使う必要がある程度には、と心の中だけで付け加える。
だからこそ、安心してキラを預けておけるのだが。
しかし、彼女とラクスが友人になったと聞いて怖いと思うのは自分だけだろうか。いや、そうではないと思いたい。
どちらにしろ、この戦争が終わらなければ直接顔を合わせることはない。それだけ被害は限定されるはずだ。
そして、とミゲルは続ける。
あの二人が直接顔を合わせるときにはキラがそばにいるはず。
ならば、後は人身御供を一人差し出しておけばいい。
そして、その人身御供は決まっている。
「どちらにしろ、勝利をつかんでからだな」
ぼそっとそう呟いた。
「……それからが本番だろうね」
しかし、ラウがそう言う。
「隊長?」
何をいているのか。そう思いながら彼を見上げる。
「詳しいことは、お互い、生き残ってからだ」
しかし、彼は答えをくれない。
「……わかりました」
こういうときに何を問いかけても無駄だ。それがわかっているから、ミゲルは素直に引き下がった。