小さな約束
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「キラさん、今日は何を作っているんですか?」
レイがこう言いながらキラの手元を覗き込んでくる。
「ラクスが新曲を送ってくれたから、PVを作ってみようかなって」
それならば誰も怒らないし、と続けた。
「キラさんが地球軍のマザーにハッキングを仕掛けたのがいけないと思います」
即座にレイがこう言い返してくる。
「……地球軍になんてハッキングなんてしてないよ?」
少なくとも、自分は地球軍のマザーに潜り込んだつもりはなかった。
「セイランのマザーにウィルスなら仕掛けに行ったけど」
これもギナの許可があってのことだ。当然、別のモニターで彼が状況を監視していた。
だから、怒られるべきなのは自分ではない。キラはそう考えている。
「ギナ様が『かまわない』って言ってたし」
そうでなければ、自分だってやらなかった。
「……だから、ギナ様は今、一人であれこれとやらされているんですね」
自業自得だったか、とレイは言い返してくる。
「カガリさんにも『ギナ様への気遣い無用』と伝えておきます」
さらに彼は言葉を重ねた。
「……でも、いいでしょ。こちらに有益な情報が手に入ったんだから」
キラはそう言い返す。
「それは結果論です!」
レイがすぐに怒鳴ってきた。
「……ラウさんとギルさんはほめてくれたのに」
思わずキラは頬を膨らませて呟く。
「あの二人は……」
それがさらにレイの怒りを煽ったらしい。
「あちらに戻ったらお仕置きをしないとだめですね」
低い声でこんなつぶやきを漏らしている。
「一人じゃ無理でしょ?」
即座にキラはこう言う。
「もちろん、ラクス様を巻き込むに決まっているじゃないですか」
真顔でレイが言葉を返してきた。
「キラさんが危険なことをしているのにほめるって、だめでしょう」
「……別に危険じゃないし」
ぼそっと反論の言葉を口にする。
「ミスっても、あちらの追求はセイランで止まるし」
さらにそう続けた。
「そうは言いますけど……」
「正式にセイランから借りているIDを使ったし」
つまり、何かあっても責任はセイランが取ると言うことだ。キラは言外にそう告げる。
「目的があれの対策だからね。システム関係を確認できるレベルのものらしい。そして、その対策をとれるだけの技術者がモルゲンレーテから出向していると言うことだよ、レイ」
そんな人間であれば、セイランのマザーから地球軍のそれへのルートを見つけてもおかしくはない。
そして、ウィルスの侵入経路を探すためにそちらにアクセスするのは当然ではないか。
「……屁理屈ですね」
「でも、ちゃんと理由になっているよ?」
「否定は出来ません」
悔しいが、とレイは呟く。
「でも、次はないですからね?」
しかし、彼はしっかりと釘を刺してくる。
「わかっているよ」
とりあえずは、とキラは続けた。
「当分、キラさんから目を離さない方が良さそうですね」
レイがため息とともにそう告げる。
「ひどいな。そこまでひどくないよ」
「これに反しては反論は聞かない」
そのまましばらく彼とにらみ合う。だがすぐに笑いがこぼれ落ちた。