小さな約束
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「……核爆弾、だと?」
シーゲルの言葉にパトリック以外の最高評議会議員達は言葉を失う。
「ウズミ・ナラ・アスハからの情報だ」
それにシーゲルはこう言い返す。
「ザフトでも確認させた。間違いなく連中は再びプラントに核を打ち込もうとしている」
さらにパトリックがそう補足する。
「どうするつもりだ?」
アイリーンが問いかけてきた。
「あちらはまだ、我々がその事実に気づいているとは知らないはずだ。だから、内密に舞台を動かし、途中で迎え撃つ」
即座にパトリックがそう言い返す。
「現在、地球軍との交戦域にいる隊には反転して挟み撃ちさせる予定だ」
さらに彼はこう付け加えた。
「すでにそれらの隊に向けての補給は出してある」
彼のフォローをするように口を開いたのはユーリだ。
「ならば、後はあちらに悟られないようにするだけだな」
「このことに関しては箝口令を敷いてある。艦隊の移動に関しては地球軍に備えての演習という名目で出撃させた」
評議会議員でも知っているのは信頼できる者達だけだ、とシーゲルは言外に続ける。
「諸君らも心の中にだけ納めていて欲しい」
この言葉に事前に話を聞いていたパトリックとユーリ以外は表情をこわばらせた。
「我々の中にスパイがいるとでも考えているのか?」
こう問いかけてきたのはオーソンだ。
「君たちのことは疑っていない。だが、その下にいる者達までは、と言ったところだ」
ため息とともにパトリックが言葉を口にした。
「不本意だが、私の部下の中にブルーコスモスと繋がっていたものがいたよ」
その言葉の衝撃に誰もが目を丸くする。
「他の部署にも食い込んでいる可能性はある」
だが、それを無視してパトリックは言葉を重ねた。
「……本当なんですね?」
アイリーンが絞り出すように問いかけてくる。
「あぁ。奴らがザフトのトップでなかったことが不幸中の幸いだったかもしれん」
それは誰もが思うことだ。
「そう言うことならば仕方があるまい。作戦が終わるまでは指示に従おう」
タッドが頷く。
「地球軍の戦力をそげれば、それだけ余裕が出るか」
「内憂はそれから解消すればいいか」
そんな声が上がってくる。
とりあえず、今はそれでいい。シーゲルはそう考えていた。
モルゲンレーテの職員にも今回の一件の原因はつかめないらしい。
「……おそらく、プログラムの設定ミスだと思うのですが……」
主任だという女性がそう言って視線を彷徨わせ始めた。
「どうも、メールを管理している部分ではないようなのです。ひょっとしたら、誰かがセイランのマザーの設定を変えたのかもしれませんが……それに関しては、こちらでは調べられません」
「何故だ!」
即座にユウナは相手をしかりつける。
「我々に、その権限が与えられていないからです」
彼女は冷静に言い返して来た。
「我々が直接調べることが出来るのは、モルゲンレーテとオーブ中枢のシステム、それとアスハとサハクのシステムだけです。セイランのそれには触れることはゆるされておりません」
言われてみればそうだ。
「ですので、もし、問題がセイランのシステムのあるのでしたら、我々にはどうしようもありません」
触れることがゆるされていない以上、と彼女は続けた。
「……ボク個人では何とも言えないな、それは」
つまり、このままメールその他の流出は止まらないと言うことか。
だが、それは困る。しかし、自分の一存でセイランのマザーに触れさせることも出来ない。そんなことをすれば、一族が破滅する。
いったいどうするべきか。
ユウナは本気で悩んでいた。