小さな約束
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戦局が大きく動いたのはそれからすぐのことだった。
「……地球軍がまた核を持ち出した、だと?」
ミナが確認の言葉を口にする。
「誰からの情報だ?」
「ウズミ様です」
即座にソウキスが言葉を返してきた。
「そうか、ウズミか」
そう呟くと同時にミナが笑いを漏らす。
「さすがだな、あの方は」
彼女はそのまま視線を向けて来た。
「ただし、あまり見習うなよ、カガリ。あの方はその気になればギナと互角にやり合える。その程度の実力がなければ無理だ」
「……わかっています」
ミナの言葉にカガリは小さく頷く。
「ウズミ様って、そんなにお強かったんですか?」
キラが驚いたように問いかけてきた。
「強いぞ、あの方は」
苦笑とともにミナが言い返す。
「うちの養父は当てにならなかったからな。幼かった頃、私達をしごいてくれたのがあの方だ」
だから、自分達は彼に頭が上がらないのだろう。
「私達は見たことがないが、地球連合がしつこくオーブを属国にしようとしていた頃、ただ一人で一個中隊をつぶしたらしいぞ、あの方は」
罠か何かを設置したらしいが、とミナは続ける。
「……そう、なんですか?」
「あぁ。オーブが中立を宣言したのはプラントが建国された後だ。その前にはいろいろとあったらしい」
キラはプラントで育ったのだから、公表されている歴史しか知らないのだろう。
「お父様があれこれしていたことは事実だそうだ。ホムラ叔父様もそうおっしゃっておられたからな」
しかし、だ。
「だが、ここまで詳しいことは、私も今初めて聞いた」
きっと、自分がまねをしてはまずいと思ったのだろう。ザフトに保護される前の自分であれば間違いなく同じ行動を取ったかもしれないとカガリは心の中で呟く。
「……ウズミ様がお強いならいいです。カガリと違って無理されないだろうし」
キラが即座にこう言った。
「どういう意味だ、キラ」
「他の人を巻き込まなくていいなって言う意味」
むしろ、的確な指示を出して安全に必要な情報を集めるだろう。キラのその言葉は正しいのだろうが、どこか納得できない。
「とりあえず、あちらは無事だ。ならば、我々は自分達がやるべきことをすべきだろう」
ミナがそう言いながらさりげなく割って入ってくる。
「とりあえず、キラはプラントに連絡を取ってくれ」
内密に、と言うのは地球軍に自分達の作戦がばれていると気づかせないためだろうか。
「わかりました」
キラが素直に首を縦に振ってみせるのは、ミナの指示が正しいとわかっているからだろう。
「カガリはここでおとなしくしておれ」
「何故ですか!」
即座にカガリはそう言い返す。
「決まっておろう。お前の身柄をむこうに抑えられては我々は自由に動けない。特にウズミはの」
だから、カガリはここにいなければいけない。ミナはそう続ける。
確かに、自分がウズミ達の足かせになってはいけない。
だが、だからと言って守られているだけというのもだめなのではないか。
「お前の出番はまだまだよ。その時までおとなしくしておれ。おとなしくできぬと言うのであれば……そうだな。シミュレーターで遊んでおってもよいぞ」
「シミュレーター?」
「そうだ。いずれはナチュラルも動かせるMSのようなものを開発したいからの。そのためのデーター取りよ」
ちょうどいいだろう、と付け加えられればカガリには文句は言えない。
「……わかりました」
そう言い返すしか出来ない彼女だった。