小さな約束
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アメノミハシラに流れてくる情報は予想以上に多い。
その一つ一つを確認することなど普通は不可能だろう。
しかし、だ。データー分析に関してはザフトの情報局ですらしのぐかもしれないのがキラだ。
今もなにやらプログラムを組み込んでいる。
「多分、これで特定のワードを抽出してくれると思います。それでもかなりの量になるかと思いますが」
キラはそう言いながらカナードを見上げた。
「それはそれで嫌がらせになるからかまわん」
即座にカナードはこう言って笑う。
「だから、適当にセイランに転送する設定にしてくれ。あぁ、女性問題ならなおいいな」
彼はその笑みのままそう続けた。
「カガリが気にしてチェックするときに設定をミスったことにすればいい」
それはそれでメールボムのようになるような気がする。
「いいんですか?」
キラが確認のためにそう問いかければ、
「かまわないだろう。ミスだからな」
カナードが即座にこう言い返してきた。
「なら、いいんですけど……」
しかし、本当にいいのだろうか。この前作ったプログラムほど凶悪ではないが、メールサーバーを圧迫するのは目に見えている。いくらミスでも、と不安を打ち消せない。
「女性関係に関するデーターだけ転送、と言うのは可能か?」
ふっと思いついたというようにカナードが問いかけてくる。
「フィルタリングを二段にすればいいだけですから……ただ、速度は落ちますよ?」
「かまわない。その代わり、あいつに対する嫌がらせが出来るだろう?」
その方が都合がいい。カナードはそうも付け加えた。
「……わかりました」
その表情を見た瞬間、自分が何を言っても無駄だとキラは判断する。
「ついでに同じものをマスコミにも流して欲しいところだ」
特に醜聞に繋がりそうなものを、と言われてキラは首をかしげた。
「醜聞って、どういう意味ですか?」
内容がわからなければフィルタリングしようがない、と言外に付け加えながら問いかける。
「……まさかそう来るとは……」
カナードが呆然としたままそう呟く。
「どうやらお前でもキラには勝てぬようだな」
その時だ。ミナの声が二人の間に割って入ってくる。
「ここまでだとは思っていませんでしたよ」
「それだけ、あやつらが大切に育ててきたのだろ」
いいことだ、と彼女は笑う。
「ちなみに、選別して欲しいのはあやつがカガリ以外の女性とやりとりしているメールよ。あの子に求婚しておきながら他の女性に声をかけておるようなバカはさっさといなくなるべきだからの」
そうだろう、と言われてキラは頷く。
「それならば大丈夫だと思います」
そして、こう言った。
「では頼むとしようか」
ミナがそう言うのであれば遠慮はいらないだろう。キラはそう判断する。
「……そう言えば、カガリは? レイを連れて行ったまま帰ってこないんですが」
レイが邪魔をしていないのか。それが不安だ。
「ギナが付いておる。しごかれておるようだな」
小さな笑いとともにミナがそう教えてくれる。
「安心していいぞ」
この言葉にキラは小さく頷いた。
「じゃ、作業を進めます」
キラの言葉にミナが首を縦に振ってみせる。それを確認してからキラは再びモニターへと向き直った。