小さな約束
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キラ達が無事に目的地に着いたと連絡があった。
「これで一安心だね」
とりあえずは、だが……とギルバートは呟く。
「問題は、プラントにも連中の手の者がいると言うことだろうが」
それも、おそらくは自分の同僚か上の立場だろう。
あるいは、軍部の人間か。
どちらにしろうかつには手出しできない。
「さて、どうすべきかな」
自滅を待つには時間が足りないだろう。かといって、うかつに罠にはまってくれる相手でもなさそうだ。
「ラウがいれば無条件でこき使っているのだが」
残念ながら、彼は現在任務中である。しかも、こちらよりもより優先度が高い。
「こうなるとわかっていれば、もう一人ぐらい協力者を作っておくべきだったね」
今更だが、と苦笑を浮かべる。
「当面はラクス様の人脈をお借りするしかあるまい」
それにしても、とギルバートは心の中で呟く。彼女が幼い頃から知っている。しかし、ここまで人脈を広げていたとは思わなかった。
ある意味、末恐ろしい。
だが、とすぐに考え直す。
彼女はキラの味方だ。それだけは変わらない。ならば、どのような相手であろうとかまわないだろう。
必要なのはあの子の幸せを守ることだ。
「それがあの人との約束だからね」
自分が何を置いても守らなければいけない唯一の、と続ける。
「さて……取り急ぎ必要な場所へ連絡しないとね」
そう呟くと、ギルバートはメールを打ち込むためにキーボードを引き寄せた。
「……いったいなにをしているですか、あなた方は」
冷たいまなざしとともに男が少年達を見下ろす。
「あなた方にどれだけのお金と手間がかかっていると思っているんですか?」
自分達の強化された聴覚には、その声すら騒音に聞こえる。それを男が知らないはずがない。
「全く……たった二機に翻弄されるなんて……」
今まで戦ってきたような連中なら、そう言われても仕方がないだろう。
だが、あの二機は全く別物だった。
お互いがどのような動きをするか。それをフォローするには自分がどう動けば最大限の力を発揮することが出来るのか。それを熟知ししきっている。
そんな連中相手に自分達が互角に戦っただけでもほめて欲しいと思う。
もっとも、目の前の男が望んでいるのはただ一つ。自軍の勝利だけだと言うことも知っている。
自分達はそのためのただの道具だ。
「お仕置きが必要ですね」
それが失敗すればこうなることは目に見えていた。
男にすれば、それがどれだけ自分達にとって辛いことだろうとかまわない。
いや、つらければ辛いほどいいと考えているのではないか。
少しでも早くその苦しみが終わればいい。
あるいは、そんなことすらわからなくなるか。
どのみち長くはない人生ならば、せめて最後ぐらいは自分が望む形で終わりたい。
もっとも、今の自分にはそんな自由もないだろう。
「と言うことで、きちんと反省してくださいね」
それが俺たちの長い時間の始まりだった。