小さな約束

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 何とかしてキラに連絡が取れないだろうか。アスランはそう呟く。
「メールにしてもすぐに返事があるわけではないし……」
 そう考えれば、むしろキラがオーブにいてくれた方がよかったのかもしれない。
 あそこならば、すぐに返事が戻って来た。
 しかし、だ。
「アメノミハシラに言ってしまえば難しいかもな」
 何故かは知らないが、自分が出すメールの半分はキラの手元に届かない。あちらに公式ルートで確認すれば『禁止ワードが含まれているから』と言う返答だった。しかし、アスランにはそのような単語を書いた記憶がないのだ。
 あるいは、オーブのスラングなのかもしれない。
 それを確認しようと思っていたのに忘れていた。今からその作業をする時間があるのだろうか。
 ないな、と心の中で呟く。
「全く……」
 どうしてこの時なのか。
 いや、それ以前に、どうしてキラがアメノミハシラに行かなければならないのか、と思わずにいられない。
「プラントだって安全じゃないか」
 本国にいれば途中で誰かに襲撃をされることもない。今回のようなことだって起きなかったはずだ。
 何よりも、あそこにはラクスがいる。
 彼女であればキラを守ることぐらい簡単だろう。
 それとも、ラクスでもキラを守れない状況になってしまったのか。
「……いったい、本国で何が起きているんだ?」
 それもわからない。
 わからないことが気に入らない。
 だから、いらだちが治まらないのだろうか。
「それもこれも、地球軍が余計なちょっかいをかけてくるのが悪い」
 あいつらがキラを追いかけ回すのが悪いんだ、とアスランは呟く。
「さっさと殲滅するしかないのに……」
 自分達には現状をひっくり返すだけの力がないのも事実だ。
「こういうときに、まだまだ未熟だと自覚させられるな」
 ため息とともにアスランはそう呟く。
「とりあえず、キラにメールを書くか」
 届くかどうかはわからない。だが、それを終わらせないと冷静に物事を考えられないようなきもする。
「……早々にこの戦争を終わらせるには、どうすればいいんだろうな」
 その答えを、アスランは持っていなかった。

 手元の携帯端末のモニターを覗き込んで、ラクスは小さな笑みを浮かべる。
「無事で何よりですわ」
 それにしても、と彼女は続けた。
「キラ達がどうして狙われたのか。もう一度よく考えてみる必要がありますわね」
 彼らの出航は極秘事項だったはずなのだ。そして、アマノトリフネ以外にも出航していた船はある。
 それなのに、ピンポイントで襲撃されてしまった。
「誰かが情報を流したのでしょうか」
 そうだとするならば、どの段階でだろう。
「わたくし一人では確認するのに時間がかかりすぎますわね。どなたかに、ご協力いただかなくては」
 こういうときにミゲルがいればこき使えるものを、と心の中だけで呟く。
「とりあえず、デュランダルさまにお声をかけさせていただきましょうか」
 彼女はそう付け加えた。
「お父様でもいいのですが……お忙しすぎますもの」
 それは彼の立場であれば仕方がない。言葉は悪いが、まだ中堅としか言えないデュランダルならばそこまで忙しくないはずだ。
 それに彼はキラの味方だ。
 自分の味方ではないが、それは問題はない。
「そうさせていただきましょう」
 まずはメールだろうか。
 そう呟きながら、ラクスは彼のアドレスを呼び出していた。

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最遊釈厄伝