小さな約束
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「救援を感謝する」
ミナの言葉にモニターに映っている相手は苦笑を浮かべる。
『自分達が手を出す必要はなかったようですが』
その表情のまま彼はこう言ってきた。
「いや。貴殿らが増援を引きつけてくれたおかげで、余計な邪魔が入らずにすんだ」
ミナはそう言い返す。
「もっとも、逃げられたがの」
まさかあそこでさらなる増援が来るとは思わなかった。ミナはそう付け加える。
「あれって、アークエンジェルの同型艦ですよね?」
カガリが確認するようにムウへと問いかけた。
「だろうな……データーだけは届いていたってことだろう」
それだけで作り上げたのか、とあきれているのか感心しているのかわからない口調で彼は続ける。
「ついでに言えば、あの三機の本来の母艦はあれなんだろうよ」
だから、連中はためらうことなくその存在を確認した瞬間に撤退を開始したのではないか。そう告げるムウの推測は間違っていないのではないだろう。
『そちらにはずいぶんと連中の内情に詳しい人間がいるようですな』
バルトフェルドがそう突っ込んでくる。
「先日、ザフトが拿捕した地球軍の軍人を一人、こちらに譲ってもらっただけだ」
ミナはそう言って微笑む。
「遠慮なくこき使えるからな」
「……やめてくれ」
真顔でムウはこう言ってくる。
「そんなことをされたら、マジで命が足りなくなる」
自分はナチュラルなんだぞ、と彼は付け加えた。
「規格外のくせに何を言っておる」
こう言い返せば、ムウは盛大に肩をすくめてみせる。
『ずいぶんとなじんでいますが……』
「こう言う性格でなければ、ギナには付きあえんからな」
撃たれ強く、それなりに自己主張が強くなければ、とミナは付け加えた。
「それってほめてないから」
ため息とともにムウが呟く。
『なるほど。まぁ、上が決めたことなら文句はありませんがね』
バルトフェルドが意味ありげな声音で言葉を返してくる。
「本音は違うようだが?」
『どうでしょうな』
やはりこいつも狸か、とミナは心の中で呟く。だが、そうでなければ隊長になどなれないだろう。
「まぁ、いい。それに関してはお互い様よ」
話せないことがあるのは、と言外に付け加える。
「それよりも、我々は目的地に向かってよいのか?」
プラントに戻るとなれば予定がずれる。それはそれで困るのだが、と心の中で付け加えた。
『いえ。そのまま航行を続けられて結構です。必要であれば、我々が護衛をさせていただきましょう』
それはどういう意味で言っているのだろうか。ミナはいくつもの推測を脳裏で思い描く。
だが、それは悪い申し出ではない。
「そうだな。頼むか」
子供達を安全に移動させることが出来るならば十分だ。
『お任せください』
なにやら楽しげな口調でバルトフェルドが言葉を返してくる。
『その道中、よろしければギナ様をはじめとする方々と演習をさせていただきたい』
それが目的か、とミナは心の中で呟く。
「残念だが、それに関しては私からは確約できぬ。あれらに命令できるのは出撃と待てぐらいだからな」
このセリフがツボにはまっやのだろうか。バルトフェルドが肩をふるわせている。
『それでもかまいませんよ。なかなか楽しそうだ』
その言葉にミナは笑みを返す。
「なら、好きにされるがいい」
その表情のまま、こう告げた。