小さな約束
122
「どうやら、我々が行く必要はないようだね」
残念、とラウは呟く。
「無事なのですか?」
即座にミゲルが問いかけてきた。
「そのようだよ。もっとも、あの三機には逃げられたらしいが」
どうやら、近くに別働隊を待機させていたらしい。そうでなければ、バルトフェルドまでいるにもかかわらずあそこまで鮮やかに逃げられるはずがないだろう。
「……そちらを探しますか?」
「そうだね。無理だとは思うがやってみてくれないかな?」
あれらは放置しておくと厄介ないことになるだろう。だから、せめて動向だけでもつかんでおきたい。
「それと、近くにある地球軍および関連施設のデーターを入手手来てくれるかな? オーブや民間の施設も含めて、だ」
おそらくだが、その中のどれかに連中の拠点となり得る施設があるのだろう。
「了解しました」
こういうときにあれこれ聞いてこないミゲルはありがたい。これがアスランやイザークだとこうはいかないだろう。
「キラ達の無事は連中に教えてもかまいませんか?」
思い出したようにミゲルが問いかけてくる。
「もちろんだ。でなければ何をしでかしてくれるかわからないからね」
「了解です」
同じこと考えたのだろう。ミゲルも苦笑とともに頷いている。
「では、頼んだよ」
その間に自分は本国への連絡をはじめとした厄介事を終わらせておくべきか。
「そうだ」
ふっと思いついてミゲルを呼び止める。
「何でしょうか」
「サハクの双子にまで手を出してきたと言うことは、彼らは焦っている可能性がある。近いうちになにかが起こるかもしれない。覚悟しておくように」
他の者達に話すかどうかは彼の判断に任せよう。
「……厄介事を押しつけてくれましたね」
小さなため息とともにミゲルがそう言い返してくる。
「あきらめるのだね。それが君の役目だ」
そう言いながらラウは目を細めた。
「すでにあきらめてます」
そう言うと、彼は床を蹴る。
「バルトフェルド隊長に隊長のあれこれを聞かされてないといいですね、キラ」
最後の置き土産とばかりに彼は入り口のところで言葉を口にした。
「……その可能性はあるだろうね」
もっとも、それを聞いたぐらいでキラが自分のことを嫌いになるとは考えていない。それで壊れるような絆を築いてきたつもりはないのだ。
「まぁ、キラなら笑って流すだろう。レイもそうだな」
騒ぐとすればカガリぐらいなものだろう。後一人、嫌みを言ってきそうな者もいるが、あれは無視してもかまわないはずだ。
「後でバルトフェルド隊長が何を言ったのか。それだけを聞けばいいかな」
ラウはそう呟くと端末へを手を伸ばす。
「私だ。本国へ回線をつないでくれ」
『了解しました』
即座に言葉が返される。
「さて……うまく確保できればいいが」
おそらくはあちらとの戦闘でかなり戦力を削られているはずだ。万全の状態でなければこちらが有利なのは目に見えている。
そのためにも本国のネットワークは必要だ。
「何にせよ、努力が必要と言うことだろうね」
自分の言い分を認めさせることがまずは第一だろう。そう呟くと、ラウは視線をモニターへと向ける。それはまだ何も映し出してはいなかった。