小さな約束
117
地球軍のアマノトリフネ襲撃については、当然、クルーゼ隊にも伝えられた。
「まさか、そちらに向かうとは思わなかったな」
ミゲルがそう言いながら顔をしかめる。
「オーブは中立だろうが」
アスランが忌々しそうにそう言った。
「……地球軍にとっては、プラントと関わりのあるものは全部敵なのかもしれないな」
イザークが冷静に状況を分析する。
「それで、俺たちはどうするんだ? 当然、救援に向かうんだよな?」
ディアッカが期待に満ちたような声音で問いかけてきた。
「隊長の判断次第だな」
それにミゲルはこう言い返す。
「距離が微妙だからな……全速で行ったとしても間に合うかどうか」
本国からも救援が向かっているらしい。
「無駄になっても意味がない。あれが陽動だと言う可能性がないわけではないしな」
隙を突かれて、また本国に強襲をかけられても困る。ラウならばそう考えているはずだ。
「本国からはどなたが?」
ニコルが口を挟んできた。
「バルトフェルド隊と聞いたぞ」
その言葉に誰もが困ったような表情になる。
「よりによって、バルトフェルド隊長ですか」
「大丈夫なのか、キラ」
ラウとバルトフェルドの仲の悪さはザフト全体に知れ渡っていた。だから、キラがラウの被保護者だと知られたらどうなることか。アスランがそう呟く。
「大丈夫だろう」
ミゲルは苦笑とともに言葉を返す。
「ミゲル?」
「バルトフェルド隊長は公私をきちんと分けられる方だ。もちろん、うちの隊長もな」
キラの事以外は、とこっそりと付け加える。
「第一、キラにはラクス様が付いているんだぞ?」
「……言われてみれば」
「納得した」
とても、とイザークが呟く。
「それだけじゃないだろう。うちの父をはじめとした最高評議会議員もキラを気に入っている」
ラウに対する嫌がらせをするにしてもキラを傷つけるのはまずいと判断するのが普通ではないか。アスランの分析は正しいだろう。
「別の意味で、キラを使った嫌がらせをするかもしれないが」
ラウの目の前でキラを可愛がると言うような、とミゲルは口にする。
「あり得ますね」
「その結果、被害が来るのはこちらですか」
ニコルが深いため息とともに言葉を口にした。
「サハクのお二人の前でそれが出来るなら、勇者と言ってもいいのかもしれないな」
バルトフェルド隊長でも、そこまで命知らずではないだろう。そう信じたい。
「そうだな。あいつもいることだし……」
何かを思い出したのか。アスランが嫌そうな表情で続けた。
「カガリ嬢か。そういえば、一緒に戻っているのだったな」
イザークが笑いながら言葉を返す。その瞬間、アスランがますます嫌そうな表情になる。
「ナチュラルにしては強かったな、彼女は」
ディアッカがそんな二人の様子には気づかずにこう言った。
「ラクス様と仲もいいし……キラにしてみれば、心強い味方だよな」
ミゲルもそんな彼に同意をする。アスランがどう感じようと、それはまぎれもない事実なのだ。
「ともかく、体調を整えておけ」
いつ出撃命令が下ってもいいように。そう告げれば、誰もが表情を引き締めていた。