小さな約束
116
「船室に戻っておるか?」
二機が出撃たのを確認して、ミナが問いかけてくる。
「私は残ります。キラは……戻った方がいいかもしれないな」
カガリは即座に言い返した。
「でも僕だけ、安全な所にいるのは、不本意です」
どうして自分だけ、とキラが言外に問いかけてくる。
「そうしておけ」
だが、ムウがカガリの味方に付いてくれた。
「これからのことは、坊主には刺激が強い。あの二人も、お前さんに怖がられるのは不本意だろうしな」
個人的には相手がかわいそうだ、とムウは笑いながら続けた。
「そういうことよ。カガリはこれからもこのような場面に出くわす可能性が高い。しかし、お前は違うからの」
民間人として生きるのであれば戦場を目にする必要はない。ミナもそう言って頷いた。
「……わかりました」
何かを感じたのだろう。キラは渋々と言った様子で言葉を口にする。
「よい子じゃな」
ミナが優しい声音で言葉を綴った。
「私もあまりお前に怖がられたくないからの」
その言葉にキラだけが首をかしげている。
「ギナ様の名誉のためにも部屋に戻っていた方がいいぞ」
ムウが笑いながらキラにそうささやいているのが見えた。
「これから散々ののしられそうだからな」
彼はさらに声を潜めるとそう付け加えている。
「そうですね。キラさんがそれを見ていたと知ったら、ギナ様がショックを受けます」
レイがまじめな口調で同意の言葉を口にした。
さすがは一番長くキラと一緒にいるだけのことはある。
「……わかった」
戻る、とキラの口から言わせた。レイのそんな行動に、ミナが満足そうに頷いている。
「では、さっさと戻りましょう」
言葉とともに彼が手を出し出す。それをキラは素直に握りかえした。
「……いいな」
思わずこう呟いてしまう。
「まだ機会はあるであろう」
時間はあるからな、とミナが笑った。
「そのためにもバカには早々に退場してもらわなければならぬ」
だが、すぐにいつもの表情に戻るとこう告げた。
「そうですね」
カガリもそれには同意だ。
「人間を道具扱いする連中も嫌いです」
そう付け加える。
「わかっておる。我らも同じ気持ちよ」
だからこそ、ここは生き延びねばならない。
「さて、あれらはまじめに戦っておるかな。必要なら、私も出るが……」
ミナがそう言いながらモニターを見つめる。
「その前に、我らが」
ミナの脇に控えていたソウキス達が口を開いた。
「わかっておる。行ってくるがよい」
彼女の言葉に、表情は変えないもののソウキス達はどこか嬉しそうに頷いている。そのまま彼らはブリッジを出て行った。
「さて、乗り切れるかの」
ミナの言葉に、カガリは視線をモニターに戻す。
そこではギナとカナードが三機のMSと交戦している光景が映し出されていた。