小さな約束
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その知らせにパトリックは渋面を作る。
「彼らの出航は内密に行われたはずなのに、何故、襲撃をされる?」
どこからか情報が漏れていたのか、と言外に付け加えた。シーゲル達にもそれが伝わったのだろう。それぞれが厳しい表情を作っている。
「狙いが誰なのか……それが問題だな」
サハクの双子なのか。それともカガリか。
そう考えたところで、一つの顔が脳裏に浮かぶ。
「まさか、キラ君か?」
可能性としては低いだろう。だが、二度も地球軍がその身柄を確保しようと考えていることを鑑みれば、ないとは言い切れないのだ。
あるいは、とパトリックは呟く。
自分達が知らないなにかがキラにはあるのかもしれない。
後で確認をしなければいけないだろう。そう心の中で呟いた。
だが、今はそれは優先すべきことではない。
守るべきものを守る。
それがプラント最高評議会議議員としての役目ではないか。
「そのためにも、彼らには無事でいてもらわなければな」
まっすぐに前を見つめながら、パトリックはそう口にした。
「……それは予想外でしたわね」
ラクスはそう言ってため息をつく。
「それで、ザフトは救援を出すのですか?」
まだプラントの支配域だろう、と言外に問いかける。
「間に合うかどうかはわかりませんが」
それに目の前の青年が言葉を返してきた。
「我々がこれから出撃します。周辺にいる隊にも通達が行っているはずです」
問題は時間だ。彼はそう言った。
「……では、お引き留めするわけにはいきませんね」
こうして顔を出してくれたのも本来ならば許されないことなのではないか。そう思いながらラクスは言い返す。
「サハクのお二人がそろっているのであれば、何も心配はいらないと思うのですが」
あの二人だけで地球軍の一個艦隊ぐらいは翻弄できるだろう。彼はそう続ける。
「それでも万が一と言うことがありますわ」
「わかっています。お二人も非戦闘員は早々に安全な場所に逃がすでしょうから」
そちらを保護する方に動くべきなのかもしれない。どちらにしろ、状況次第だが、と彼は続けた。
「お願いしますわね」
ラクスは笑みを深める。
「何があろうと、キラを無事に安全な場所に」
万が一のことがあれば、自分は全てを放り出すかもしれない。言外にそう告げた。
「善処します」
微妙に笑顔が引きつっているような気がするのは錯覚ではないだろう。
「では、自分はこれで」
言葉とともに彼が逃げるように部屋を出て行く。このまま軍港に向かうのだろう。
「本当に、最近の軍人さんはメンタルが弱いですわ。わたくしが何を言おうと平然としていらっしゃるのはクルーゼ様とバルトフェルド様ぐらいですわね」
やはりそのくらい出来なければ『名将』と言われないのだろうか。
「今度、お父様に聞いてみましょう」
それよりも、とラクスはため息をつく。
「どうしてキラばかり……わたくしの知らない《何か》があるのでしょうか」
キラの保護者達がそれを自分に教えてくれないのは、実力が足りないからか。それとも、とため息をつく。
「わたくしもまだまだ、と言うことですわね」
彼らのお眼鏡にかなわないからこそ、重要なことは教えられていないのだろう。
「でも、いいですわ。いずれ、全てを聞かせていただきましょう」
ラクスはそう言って微笑んだ。