小さな約束
113
ブリッジではミナが厳しい表情をしながらモニターをにらみつけていた。
「……ギナ様とカナードさんは?」
ムウなら知っているだろう。そう判断をして、キラは彼を見上げた。
「デッキよ。新型の実戦テストをしたくてうずうずして追ったらしいわ」
だが、あきれたような声音で答えをくれたのはミナだった。
「まったく……あれらは自分で確かめねば納得できぬと見える」
それならば時を選べばいいのに、と彼女はため息をつく。
「お前たちにいいところを見せたいだけかもしれぬが」
「その可能性大ですね」
ムウがそう言って苦笑を浮かべる。
「毎日毎日、坊主のかわいらしさを聞かされています身としては、そうとしか言いようがないですよ」
さらに付け加えられた言葉に自分はどんな反応を示せばいいのだろうか。
そんなことを考えながらミナを見つめる。
「あれらならそうだろうな。だが、まだまだ甘いぞ。戦争が終われば、私の他に後二人、加わる」
そのメンバーが全員、それぞれが知っているキラ自慢をするだろう。この言葉に、キラの頬が引きつる。
「……やめてください……」
そんな羞恥プレイは、と思わず口にしてしまう。
「安心しろ、お前の前ではやらぬ」
さすがにかわいそうだからな、とミナは笑った。
「それよりも、だ」
だが、すぐに彼女は表情を引き締める。
「敵が来る前に、キラに許可をもらっておこうと思っての」
「何でしょうか」
「お前が作ったあのウィルス、使わせてもらうぞ」
それは出発する前に作ってしまったあれのことだろう。しかし、だ。
「使い物になるんですか、あれ」
「もちろんだ」
即座にミナは言い返して来る。
「一見すれば使い勝手のよいプログラムだからの。出来れば、こちらからの操作でも動き出すように出来ればいいのだが」
この言葉にキラは首をかしげた。
「そのくらいなら、すぐに出来ますよ。元々、そのつもりで考えていましたから」
その前段階でつまずいていたが、と苦笑とともに続ける。
「なら、十五分以内に完成させろ」
面倒ごとは一気に片付ける、とミナは言い返して来た。
「すぐに解除されてもかまわん。逃げる時間さえ確保できればな」
必要なのは対策を取る時間だ、と彼女は言い切る。
「それと、ムウ・ラ・フラガ」
視線を移動させるとミナはさらに言葉を重ねた。
「はいはい。何ですか?」
「地球軍のシステムに介入できるか?」
この問いかけにムウは首を横に振る。
「残念ながら、俺をはじめとしたアークエンジェルクルーのIDはすでに無効化されてます。むしろ、セイランから攻めた方がいいと思いますが?」
「そうか」
事前に予想していたのだろう。ミナはさほど気にする様子もなく頷いて見せる。
「時間がかかるが仕方ないな。キラ」
「すぐに作業に入ります」
でも、とキラは続けた。
「どの端末を使えばいいんですか?」
下手な端末は使えないだろうと判断して問いかける。
「ならば、あれを使え」
指さされた端末へとキラは移動した。
「あれのデーターはこれに入っている。終わったら、また保存して渡せ」
言葉とともにミナはデーターカードをキラの方へと放る。
「はい」
キラはそれを受け取ると椅子に腰を下ろした。