小さな約束
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艦内に警報が鳴り響く。
「……敵襲だと?」
真っ先に反応を示したのはカガリだった。
「この船はオーブの識別信号を出しているんだぞ! 何故、襲撃される!」
彼女はさらにそう付け加える。
「だからかもしれません」
レイは静かな口調でそう告げた。
「レイ?」
どういう意味か、とキラが言外に問いかけてくる。
「……地球軍の狙いはこの船の拿捕か、あるいは破壊だと思います」
サハクの双子が邪魔になったのかもしれない。彼はそう続けた。
「一息に破壊しないのは、カガリさんがいるからでしょう」
サハクは当主がコーディネイターだがアスハは違う。
そして、とレイは続ける。
「いい方は悪いかもしれませんが、カガリさんは女性ですからね」
彼の言葉にカガリは眉根を寄せた。
「私の子供にはアスハの継承権があるからか」
「そうです。最初から地球連合で施されているのと同じ教育を与えれば、ナチュラル至上主義の首長が生まれるだろう。
地球連邦にすれば、これ以上ない状況が生まれる。
「子供の命を盾に取られれば、カガリもうかつな行動がとれないしね」
そう考えれば、結婚相手は慎重に選ばなければならない。
「ラクスもだけど、カガリも大変だね」
「仕方がないさ。そう言う立場だからな。ミナ様ぐらい強ければいいんだが」
そうすれば、結婚相手ぐらい自分で選べるだろうに。そう続ける。
「もっとも、そのためには実力だけではなく年齢も足りないがな」
だからあいつらが好き勝手言ってくるのだ、と彼女は続けた。
「せめて、レイが私達よりも年長であれば、適当にごまかせたんだが……」
残念、と彼女は呟く。
「それなら、事後承諾でラウの部下の誰かにすればいいんじゃないですか?」
アスラン以下、最高評議会議員の子息がそろっている。口実としては十分すぎるだろう。レイはそう言い返した。
「……それはそれで現実になりかねんからな」
ため息混じりに彼女はそう告げる。
「難しいね」
「難しいな」
キラの言葉にカガリがうなずき返す。
「その前にこの状況を何とかする方が先だと思うけどな、俺は」
そんな彼らの会話に別の声が割り込んできた。
「ムウさん」
「何故、ここに?」
キラとレイの言葉に彼は肩をすくめてみせる。
「使いっ走りだよ。ブリッジに来て欲しいとさ」
なにやら話があるらしい。彼はそう続けた。
「ミナ様がお呼びなら仕方がないな」
カガリがそう言って視線を向けてくる。
「そうだね」
レイもかまわない、と言いながらキラは視線を向けた。
「艦長の命令は絶対ですから」
ラウがそう言っていた、と続けるレイの言葉に、ムウが微妙な表情を作っていたのはどうしてだろう。
キラはそう考えながらも、さっさと移動を開始したムウの後を追いかけていった。