小さな約束
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アマノトリフネは居住性よりも防御と速度を優先しているらしい。
「狭くてすまんの」
ミナが苦笑とともにこう言ってくる。
「いえ。仕方がないことですし」
慣れています、とキラは言い返した。
「レイと一緒だから」
さらにこう付け加える。
「そうか」
ミナはそう言ってうなずく。
「ブリッジと機関室以外は自由に入れるようにしておく。ただし、あまり手を出すでないぞ」
危ないからな、と付け加えられて、キラは小さく首を縦に振ってみせる。レイもだ。
「いい子だ。食事は出来れば時間を合わせようか」
そのくらいは許されるだろう、とミナは笑う。
「僕はかまいませんが……ミナ様とギナ様は大丈夫ですか?」
忙しいのではないか、と言外に付け加える。
「そのくらいの時間をとれずにどうする。逆に忙しいからこそお前たちの顔が見たいしな」
ミナがそう言うのであればそうなのだろうか。そういえば、ラウやギルバートも同じようなことを言っていたような気がする。
「わかりました」
「すまんな。アメノミハシラに着けば、ゆっくりと相手もしてやれよう」
「大丈夫です。カガリもいるし」
暇はつぶせるだろう。心の中でそう呟く。
「そうですね。カガリさんがいれば、あれこれとする羽目になります」
レイもそう言って頷く。しかし、微妙にニュアンスが違うような気がするのは錯覚だろうか。
「そうか……あれもいたな」
ミナがそう言って苦笑を浮かべる。
「仕方がない。あれに付き合ってやってくれ。そうすれば、帰るまではおとなしいであろう」
カガリはどれだけ危険視されているのだろうか。
それとも、単に無鉄砲なだけなのか。
「……カガリさんってオーブの姫ですよね?」
レイがこっそりと問いかけてくる。
「でも、カガリだし」
姫と言うよりは騎士ではないか。少なくとも、おとなしく守られている存在ではない。
「カガリさんですしね」
レイもすぐに同意をしてくれる。
「カガリだからのぉ。我が言うセリフでもないかもしれぬが……あの子は嫁に行けるのか?」
本人が聞けば絶対に反論するだろうセリフを、ミナは口にした。
「誰か一人ぐらいはもらってくれるんじゃないですか?」
レイがかわいらしく首をかしげながらそう言い返す。
「……お前は?」
「無理です。俺はずっとキラさんのそばにいるので」
ミナの問いかけに、彼は平然と言い返す。
「そうか。残念だな」
ミナはそう言って笑う。
「まぁ、よい。そろそろ出航の時間だ。ブリッジに行くか?」
ギナが喜ぶぞ、とミナは続ける。
「お邪魔じゃないんですか?」
「かまわぬよ。それに、お前がおればギナがおとなしくしておるだろうしの」
黙って部屋にいるよりも気分転換になるだろう。そう言ってくれるミナの気持ちは嬉しい。
「ありがとうございます、ミナ様。ご一緒させてください」
キラは微笑むとそう告げた。