小さな約束
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「どうやら、彼らは薬品で身体能力を上げているらしい」
本国からのメールを読み終わったラウが不意にそんなことを口にする。
「じゃ、連中がいきなり撤退していったのは?」
ミゲルは反射的に問いかけた。
「そのせいではないか、と言う話だよ」
あくまでも可能性だが、と彼は付け加える。
「その情報はどこからですか?」
一番肝心な部分はどうやって入手したのか。まさかとは思うが、と言外に問いかけた。
「キラが入手した情報では内から安心しなさい。今回はカナード君だ」
そう言われて、ミゲルはあからさまにほっとする。
キラのことだ。そんな除法を見つけたら、今度は助ける方法がないかを探しかねない。
だが、ラウの言葉から推測して、その方法は存在しないのだろう。
その事実に、キラがどれだけ傷つけられるか。想像したくもない。
「ミナ様もそばで確認していたそうだから、大丈夫だろう」
それに、とラウは続ける。
「あの子達は近いうちにアメノミハシラに移動になるからね。勝手なことは出来なくなるだろう」
完全とは言わなくても、戦場から切り離せるのではないか。彼は言外にそう付け加えた。
「そうですか」
その事実を知った誰かさんの反応は怖いが、と心の中で呟きつつもミゲルは頷く。
「あの三機に関しては、制限時間直前の連携が乱れた瞬間を狙うしかないだろうね」
ラウが話題を変えてきた。
「可能か?」
「不可能ではないでしょう。問題があるとすれば、アスランとイザークの連携の悪さですね」
間にディアッカかニコルを挟んでおけばそれは解消できる。
だが、それでは解消出来たとは言えないのではないか。
「あいつら、どうしてああも相性が悪いんでしょうね」
状況によっては二人が直接組まなければいけないこともあると言うのに、とミゲルは続ける。
「妥協を覚えて欲しいものです」
まじめな口調でそう言えば、ラウも頷いて見せた。
「とりあえず、同じ部屋に閉じ込めておくかね?」
そして、彼はこんなセリフを口にする。
「それだけで妥協しますか、あの二人が」
無理だろう、と言外に告げた。
「何。二人でやらなければならない課題でも与えておけばいい」
それを解かなければ部屋から出られないとかね、とラウは笑う。
「別に親密になれと言いたいわけではないからね」
協力することを覚えてくれればいい。そのラウの意見には賛成だ。
「うまく行けばいいんですが」
「そのときには出撃させなければいいだけだよ」
にこやかにラウが言う。そう割り切れるからこそ、彼は隊長として有能なのだろう。
「……その分、他のメンバーに負担がかかりますが?」
とりあえず、とそう言い返してみる。
「その時は私も出撃するよ」
さらりとラウはそう口にした。
「隊長?」
「連中の実力を自分で確かめたいからね」
おかしいことではないだろう、と彼は笑う。
「そうですね」
ため息混じりにミゲルはそう言い返した。