小さな約束

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 予想外のテスト結果に、キラの頬が引きつっている。
「僕、ここまで強力なウイルスを作ったつもりはないんだけど」
 そのつぶやきにレイも頷くしか出来ない。
「どこで間違えたんですか?」
「んーと……どこだろう」
 あははは、とキラが漏らす笑いも、どこかうつろだ。
「とりあえず、カナードさんに報告しますか?」
「そうだね。ついでに相談に乗ってもらおう」
 二人がそう頷きあったときである。
「どうしたんだ、二人とも」
 カガリが顔を出した。
「プログラムをミスっちゃった」
「お前が? 珍しいな」
 カガリが目を丸くしながら呟く。それはレイも同じ気持ちだった。
「あれもこれもいっぺんにやろうとしたら、ちょっとね」
 やはり別々にプログラムを組むべきだったか。そう続ける。
「どこかでループしているんでしょうか」
「あるいは競合だね。確認してみないとわからないけど……確認してもわからないような気もする」
 今は、と付け加えた。
「……とりあえず、カナードさんよんできます?」
「それがいいかな」
 確認するにしても、誰か一人、冷静に状況を判断できる人間が必要だろう。そう判断をしてキラは頷く。
「声をかけてきますね」
 こう言い残すと、レイはきびすを返す。
「しかし、お前でも失敗するんだな」
 カガリが改めてこう言ってきた。
「僕だって失敗はするよ? プログラムだって、一発で完全なものは作れないし。ちゃんとバグ取りとかもしているもん」
 ここまですごいのが出来たのは初めてだが。もちろん、最初からウイルスを作ろうと考えて作れば話は別だが。
「……それで、これを使うとどうなるんだ?」
 興味津々と言った様子でカガリは問いかけてくる。
「一件、普通に動いているようで、実は全てのシステム消去されいく」
 それも、現在の作業とは関係のないところから、だ。
「ちなみに、作ろうとしたものは?」
「自動検査と修復システム。ついでにハードディスクの中を自動で整理してくれるようにしようとしただけ」
 それなのにどうしてこうなったんだろう。
 こう呟きながら、キラはソースを表示した。そして、上から順番に内容を確認していく。
「……それはすごいな」
 カガリが目を丸くしながらそう言う。
「ついでに、ハードディスクの中身を指定場所にコピーしてくれるなら、ぜひとも送りつけたいところがあるな」
 無条件で使ってくれそうな人間を知っている、と彼女は笑う。
「……カガリ?」
「まずはアスランだろう? あいつのことだ。お前の画像データーを秘蔵しているに決まっている」
 後は、と指折り数え始める彼女に、キラはどんな反応を返せばいいのかわからない。
「まぁ、そんなことをしたら犯罪だとはわかっているがな」
 口ではそう言っていても、半分以上、本気だったのではないか。
「いや、残念だ。皆様はともかく、ギナ様は同意してくれると思うぞ」
 そんな考えが表情に出ていたのか。カガリはさらにこんなセリフを口にしてくれる。
「ギナ様ならそうかもね。使えるものなら、何でも使うし」
 キラはそう言って苦笑を浮かべた。
「……でも、カガリがそう言うとは思わなかった」
「私だってアスハだからな」
 そう言うものなのだろうか。自分にはわからない、とキラは呟いた。

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最遊釈厄伝