小さな約束
106
自分達とコーディネイター。
いったい、どちらがより《人間》らしいのか。
いくら考えても答えは出ない。
「俺たちは生体CPUだからな」
すでに人間扱いされていないではないか。そう考えれば、コーディネイターの方がマシなのかもしれない。
それでも、だ。
自分達にはここ以外に行く場所はない。
ここから離れられても、待っているのは《死》だけだ。
「少なくとも、あいつらの方が自由か」
好きなときに好きな場所に行けるだけ、と付け加える。
「おっさんが呼んでるぞ」
そんなことを考えていたときだ。自分と同じ立場のやつが声をかけてくる。
だからと言って仲間ではない。
では何なのか。
考えても答えは出ない。
「今、行く」
それは今の自分には必要がないものだ。だから、と呟くと彼は立ち上がった。
「これは……ひどいね」
モニターに映し出されたデーターを見てギルバートはそう呟く。
「と言っても、私の専門は遺伝子の方だから、薬物関係に造詣が深くないのだが……」
ただ、と彼は続けた。
「ここに表示されている薬物が本当に使われているとするならば、被験者の体に多大な負担をかけているね」
しかも、依存性がある。彼はため息をつく。
「つまり、どういうことだ?」
ミナが問いかけた。
「これの被験者は決して長生きできない、と言うことですよ」
そして、と彼は続ける。
「現状では治療の方法がないに等しい」
一つ一つの薬品だけならば方法はある。だが、これだけ多くの薬品を使われていては、何に反応をして重篤な副作用を引き起こすかわからない。
「これらの組み合わせを見つけ出す前にどれだけの被害者が出たことか、考えたくもないですね」
彼の言葉にミナが眉根を寄せる。
「同胞の子供を実験材料にしたか」
どのような立場の子供達かは正確にはわからない。
だが、想像はつく。
一年以上も続く戦争。その間にどれだけの孤児が生まれただろうか。
引き取ってくれる人間がいてくれれば幸いだ。だが、全員がそんな幸せを持っているとは思えない。行く先のない子供から適正のありそうな者達を集めるのは難しくないことではないか。
「全く、あきれるな。子供託すべきは未来であろうに」
「そのお言葉は耳にいたいですね」
まだ十代の若者達を戦場に送り出している身としては。苦笑とともにそう付け加える。
「だが、お前たちの場合、本人の意志があってのことだ。決して、無理強いはしていまい」
違うか、と聞き返された。
「もちろんです」
それは最低限のルールではないか。
「だから、我らはお前たちについては何も言わん」
子供を実験材料にもにしていないだろう、と言われて頷く。
「さて。これをうまく使って裏にいる者達も一掃すべきだろうな」
彼女の言葉にギルバートも頷く。
「それについてはお願いしましょう」
「そうだな。ついでにあれも一蓮托生で排除したいし」
厄介事はひとときにまとめて片付けるべきだろう。その言葉に苦笑とともにギルバートは同意をして見せた。