小さな約束
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何度目の遭遇になるのか。
ディアッカはいい加減、一撃も加えられない自分に嫌気がさしてきた。
「力押しじゃだめだってことなんだろうな」
個人個人の実力だけならば自分達の方が上のはず。
しかし、勝てないどころか一機も墜とせないのは連中の連携が想像以上にすごいからだ。
残念だが、自分達では無理だ。
「ミゲルがいりゃな」
彼がいれば、適切な指示を出してくれただろう。悔しいが、一年近くの経験の差は大きい。
何よりも、とディアッカは続ける。
彼はアカデミーに入学するよりも前からラウに師事していたらしい。直接の指導はもちろん、学ぶべき方向を指示されていたはずだ。
それが指揮官としての技量に繋がっているのだろう。
「……キラ効果かね、これも」
キラとラクス、そしてミゲルは元々同じ幼年学校に通っていた幼なじみらしい。
そして、ミゲルはラウの前で『キラを守る』と言い切ったのだとか。
おそらく、それがラウに気に入られる理由になったのだろう。
もっとも、自分ならごめんだ。
間違いなくスパルタだっただろうと想像がつく。
しかし、それが最適だったことも否定できないだろう。
そんなことを考えていたときだ。
連中が不意に後退を始める。あちらが有利だったにもかかわらず、だ。
「イザーク……」
『わかっている!』
即座に彼の怒鳴り声が返ってくる。
『オロール達にはすでに連絡済みだ。後はニコルが今まで撮りためたデーターの分析次第だな』
それしかないだろう。
「何時間かかるんだよ、それ」
自分達が負けている光景を、だ。
精神的に来るだろうな。
だが、何もしていないとばれると別の意味でヤバイと言うこともわかっている。
「まぁ、がんばるしかないのか」
ため息とともにディアッカはそう呟いた。
やはり、と言うべきか。
「一定の時間で退いているな」
ディアッカはそう呟く。
「そうですね。バッテリーの関係でしょうか」
ニコルもそれに気づいていたのだろう。こう聞き返してくる。
「にしては、おかしくね?」
「どういうことだ?」
ディアッカの言葉にイザークが即座に突っ込みを入れてきた。本当にこいつは変わらない、と心の中だけで呟く。
「連中が退く直前に、わずかだが連携が崩れないか?」
映像を見て初めて気づいたのだが、とディアッカは続ける。
「……と言うことは、俺の気のせいではなかった、と言うことか」
だが、イザークの唇はディアッカの予想とは違う言葉を綴った。
「ならば、システムか……あるいはパイロット自身に理由があるのかもしれませんね」
ニコルもそう言って頷く。
「おそらく、そのあたりは地球軍のマザーに隠されているのでしょうが……」
自分ではそこまでたどり着けない。
彼のその言葉に、その場にいた者達は全員、ある人物の姿を思い浮かべる。
「……だめ、だな」
「確かに」
それだけはまずい。そんなことを考えたと気づかれただけで自分達の明日は消える。誰もアスランの二の舞にはなりたくないのだ。
「とりあえず、ここまでの推測を隊長に報告だな」
空気を変えようとディアッカはこう言う。
「それがいいな」
と言うより、それしかないだろう。誰もがそう考えていた。