小さな約束
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「レイ。ごめん。それ取って」
キラのこの言葉が終わると同時に、目の前に新たなディスクが差し出される。
「……すごいですね」
その瞬間、モニがーが見えたのだろう。彼はこう呟いた。
「そうだね。さすがはサハクの研究所だよ」
キラはそう言い返す。
「このシステムを使えば、ナチュラルでもMSを操縦できるかもしれないね」
ただ、とキラは言葉を重ねる。
「戦闘が出来るかどうかはわからないけど」
動かすことは可能だろうが、戦闘となればそれだけではだめらしい。
「自分じゃ検証できないしね」
「キラさんはそれでいいんです」
そうすれば、即座にレイがこう言ってきた。
「……レイ、そもそも僕は戦えないから」
戦う方法を誰も教えてくれない。だから、とキラは続ける。
「大丈夫。俺が守りますから」
レイは真顔でそう言ってくる。そんな彼に反論しても無駄だろう。だからと口を開く。
「うん、ありがとう」
言葉とともにキラは微笑み返す。
「でも、無理はしないでね」
こうしていさめるような言葉を口にするのが精一杯だ。
「わかってます。キラさんを悲しませるようなことはしません」
レイはすぐにこう言い返してきた。
「約束だよ?」
ラウやカナード達にはそんなことは言わない。彼らは皆、キラよりも年上でそれなりの実力を持っていると知っているからだ。
何よりも、彼らは本当にまずいときには引くことを知っている。
しかし、レイは唯一の年下の存在だ。
だから不安を感じるのだろう、とキラは考えている。
「はい」
彼はそう言うとにっこりと微笑む。そうすれば、記憶の中にあるラウの笑みときれいに重なった。
「ともかく、あと少しだから。これが終わったら、レイが淹れてくれたお茶を飲みたいな」
それに懐かしさを覚えながらキラはそう告げる。
「わかりました。任せておいてください」
すぐに用意します、と彼はきびすを返す。
「まだいいよ。もう少しかかるから」
どうせなら淹れたてを飲みたい。キラはそう主張する。
「そのためにも準備だけはさせてください」
レイはそう言い返してきた。
「ついでに何か甘いものでももらってきますね」
その言葉にキラは仕方がないというような笑みを作る。
「わかった。お願い」
「任せておいてください」
レイはそう言い残すと、今度こそ部屋を出て行く。それを確認して、キラもまたモニターに向き直った。
「……動かすだけならば今すぐでも可能だけど……実際に作業させるなら、その分のモーションの蓄積がいるよね」
オーブにはギナやカナードがいるからそれについての問題ないのか。
だが、とキラはため息をつく。
一度システムを作ってしまえば、どこに流れるかわからない。
「いっそ、外部から停止させるシステムとか、火器管制をしようとしたら停止させるシステムとかも作って組み込んでおけばいいのかな?」
オーブ側が使うときにはパスワードなどでそれを無効化すればいい。
あるいは、ギナ達のMSにそのためのキーになるシステムを組み込んでおいてリンクさせるかだ。
「ミナさまに相談かな」
それに関しては自分の権限では難しいから。キラはそう呟くと、とりあえず今までの分を保存するためにキーボードを叩いた。