小さな約束
102
つい二日ほど前にはだんだん大きくなっていったプラントが、今は小さくなっていく。
「まだ、キラとゆっくり話をしていないのに……」
その光景を見つめながら、アスランがこう呟いたのが聞こえる。
「それはみんな同じだろうが」
即座にミゲルが突っ込みを入れた。
「それでも、お前たちは家族と話をする時間があっただろう?」
自分にはなかった、と彼は言外に告げる。
そういえばアスランの両親はそれぞれが責任のある立場に付いている。こんな急な出航では顔をあわせることも難しかったのではないか。
それでも、だ。
「キラにもキラの都合がある。あきらめろ」
キラだってプラントに戻ったばかりなのだ。レイをはじめとする者達とゆっくり話をしたいと思って当然だろう。
「それとも、お前はキラが自分に合わせるのが当然だ、と考えているわけじゃないよな?」
確認するように口にする。
「だとするなら、またラクス様とカガリ嬢が出てくるぞ」
そう続けた瞬間だ。アスランの表情が凍り付く。
いや、凍り付いたのはそれだけではない。
まさしくフリーズしたという表現がしっくり来るような態度で、彼は動きを止めている。
「お前がこれ以上あれこれ言ったら、俺は無条件でラクス様に連絡をするからな。そうしろと言われているし」
さらに追い打ちをかけるようにミゲルは言葉を重ねた。
果たして、その言葉はアスランの耳に届いているのだろうか。
「……まぁ、聞こえていなくてもいいけどな」
自分はちゃんと宣言をした。だからその通りに行動するだけだ。
「ラクス様に逆らえないし……キラに嫌われるのはそれ以上にいやだしな」
そう付け加えると、体の向きを変える。
「気が済んだら戻って来いよ」
言葉を一つ投げつけると、ミゲルはその場を後にした。
ガモフから送られてきた情報は目を疑うものだった。
「……これは本当にナチュラルが?」
ミゲルは思わずそう呟く。
「確証はないが……おそらくブーステッドマンだろうと推測されている」
それにラウがこう言い返してきた。
「ブーステッドマン?」
「人工的に強化されたナチュラルだよ。我々とどこが違うのか、わからないがね」
むしろ彼らの方が悲惨なのではないか。
完成された肉体を同胞にいじくり回されるのだ。受精卵の段階で操作される自分達とは違い記憶に残るだろう。
それとも、と心の中で付け加える。
その記憶すら彼らの中には残らないのだろうか。
「……まだ、ソウキスの方がマシかもしれないね……」
ラウがため息とともにそう告げた。
「とりあえずブーステッドマンのことは内密にしておくように。無駄な不安は与えない方がいいからね」
さらに彼はそう付け加える。
「わかっています」
ラウが自分に教えてくれたのは、それなりに信頼してくれているからだろう。
「それにしても、こんな連中が山ほど投入されたらまずいですね」
「それは大丈夫だろう。当面は、だがね」
地球軍のことだ。同じような人材を確保しているに決まっている。ラウの言葉にミゲルもうなずき返す。
「ともかく、早々にガモフと合流すべきだろうね」
ラウの言葉にミゲルは「そうですね」と同意の言葉を口にした。
「……ところで、アスランはどうしている?」
「ラクス様のお仕置きにおびえて凍り付いていましたよ」
この前置きとともにミゲルは先ほどの会話を告げる。それを聞き終わったラウがとてもいい笑顔を作っていた意味は考えないようにしよう。そう心の中で呟くミゲルだった。