小さな約束
101
今回の一件は即座にプラントへと報告された。
「やはり、と言うべきでしょうか」
ため息とともにラウはそう告げる。
「すぐにでも前線に戻ります」
そして、こう続けた。
「すまないな」
パトリックがそう言い返してくる。
「いえ。ザフトの一員である以上、当然のことです」
言葉とともにラウはまっすぐに彼を見つめる。
「それに、部下達が戦っていますからね」
それなのに、体調である自分がのんびりとしていられないだろう。
「想定外の事態が起きているならなおさらです」
言葉を重ねれば、パトリックは頷いて見せる。
「極力、敵のデーターが欲しい。ただし、無理はしないように」
「わかっております」
自分達は生き残らなければいけない。それは十二分にわかっている。
もっとも、それはプラントのためではない。
自分達が傷つけば悲しむ存在がいるからだ。
目の前の相手も、自分のそんな考えに気づいているのだろう。しかし、彼はそれについて何も言ってこない。
「出発は明日の正午で調整をしておく」
「では、部下達にはそのように指示を出しておきます」
家族と過ごす時間は必要だ。そのための配慮なのだろう。そう考えながらラウは言葉を返す。
「任せる」
パトリックはこう言うと、視線をドアへと向けた。どうやら、話はこれで終わりらしい。
「失礼します」
言葉とともにラウはこの場を後にした。
一通り指示を出しギルバートの屋敷に戻ったのは夕食の直前だった。どうやら、今日の夕食と明日の朝食はキラ達の顔を見られそうだ、と心の中で呟く。
しかし、何も言わずに出撃するわけにはいかないだろう。
そう判断をしてラウは出撃のことを告げた。
「また出撃?」
予想通りと言うべきか。不安そうにキラが問いかけてくる。
「戦況が芳しくない以上、仕方がないね」
苦笑とともにラウは言葉を口にした。
「それにガモフだけで対処させるわけにもいくまい」
この言葉にイザーク達の存在を思い出したのだろう。キラは少しだけ表情を曇らせる。
「全員、無事だ。安心しなさい」
こう告げれば、キラはほっとしたような表情を見せた。
「すでにギナも動いておる。あれつけている者達もな。だから、心配いらん」
ミナもそう口を挟んでくる。
「ただ、お前にも動いてもらわなければならないかもしれんがな」
ミナはそう言って微笑む。
「……ミナさま……」
「キラに何を?」
即座に問いかけたのはラウだけではなかった。
「データーの解析よ。安心しろ。ハッキングはさせぬ」
それはカナードに任せる。彼女はそう言って笑った。
「出来るであろう?」
「……キラほど素早くは無理ですが」
「なに。セイランのマザーから潜ればよい。何があっても、あれらが責任を取るだけのことよ」
くつりと笑う彼女に、カナードはため息をつく。そんな彼の表情にラウは無意識のうちに苦笑を浮かべていた。