小さな約束
99
頬を膨らませたままのキラを連れてカナードが去っていた。
「後で機嫌を取るのが大変かもしれぬな」
ミナはそう呟く。
「わかっていてキラを怒らせたのではありませんか?」
ラクスがそう問いかけてくる。
「その方があの子が素直に帰るからな」
年下の相手に悟られるとは思わなかった。心の中でそう呟きながら言葉を返す。
同時に、この少女がキラのそばにいることは喜ばしいとも言える。
「……キラには聞かせられない話ですの?」
「あの子は国政にかかわっておらぬであろう?」
オーブはもちろん、プラントでもだ。
本人が希望しても周囲が止めるであろう。
「確かに。キラには似合いませんわ」
ラクスもあっさりと頷く。
「キラに腹芸は無理だからな」
カガリもそう言う。
「それに、あいつには自由に生きて欲しい」
好きなときに好きなところに言って、いろいろなものを見て欲しい。彼女はそう続けた。
「お母さんみたいですわよ、カガリ」
ラクスがそんな彼女をからかう。
「せめて姉にしてくれ」
この言葉に苦笑が浮かぶ。考えてみればキラとカガリは誕生日も一緒なのだ。さすがに『母』扱いはかわいそうか。
「……妹かもしれませんわ」
ラクスが少し考え込んだ後にこう告げる。
「お前な」
「カガリもあまり腹芸にはむいていませんわね」
ラクスがそう言って笑う。
「このくらいは笑って流さないといけませんわ」
そう彼女は続ける。
「……無理だな」
だが、カガリはあっさりと否定の言葉を口にした。
「キラのこととなれば、ギナ様だって表情を変えるのに」
それについて小言を言おうかと思ったが、こう続けられては無理だ。
「……まずは、あれからしつけなければならぬか?」
代わりにこう呟く。
「いや、無理だな。それこそ、いっぺん殺さなければあれの性格は治らん」
キラも本当に厄介なくらいあれに好かれたものだ。そう付け加えて苦笑を浮かべた。
「……それにしても、厄介なものに好かれるの、あの子は」
さらにそう呟く。
そんな彼女のつぶやきを気にすることなく、カガリとラクスは口論とも言えないじゃれあいを続けている。
「二人とも。そろそろやめておけ」
人目に付く、と告げた。
「……そうだな。私はかまわないが、お前は困るだろう、ラクス」
「そうですわね。不本意ですが仕方がありません」
もうしばらく《ザフトの歌姫》は必要だろう。彼女はそう告げた。
「わたくしとしては、出来るだけ早く返上したいのですが」
「戦争が終わって、状況が落ち着くまでは無理だろうな」
「そうですわね」
この二人が仲がいいというのは、キラにとってはプラスだろう。しかし、一番厄介な存在が目の前にいるというのも否定できない。
「キラも大変だな」
もっとも、あの子はそんなことは気にしないだろうが。そう呟いていた。