小さな約束
98
「無事で何よりだ」
その言葉とともにミナがキラを抱きしめてくれる。
「ミナさま?」
しかし、どうして彼女がここにいるのだろうか。
「お前たちの無事を確認しに来ただけではないから安心しろ」
そう言いながら彼女は背後へと視線を流す。その先に誰がいるのか、確認しなくてもわかった。
「なぁ、カガリ?」
ミナがいったいどのような表情をしているのか。確認するのも怖い。
「私だけのせいではないと……」
カガリがそう言い返している。もっとも、その声音は弱々しいものだ。
「ほぉ」
ミナの声が微妙に低くなる。
このままではまずい。
「……ミナさま……」
そう判断をしてキラは口を開く。
「ゆっくりと出来るところでお話し、しません?」
ここでは落ち着かない、と続ける。
「そうだな」
それにミナも頷いて見せた。
「もっとも、お前は先に戻っていていいぞ」
話があるのはカガリだけだ。彼女は言外にそう続けた。
「そうであろう、カガリ?」
アスハの後継、と言われてカガリが表情を引き締める。
「……はい」
観念したのか、彼女はこう言って頷く。
「では、これから自分がなにをすべきかも当然わかるな?」
「はい」
ミナの言葉にカガリは素直に頷いている。
「そういうことだ、キラ。お前は先に帰ってゆっくりとしているがいい。レイも心配していたしな」
彼を安心させてやれ、と彼女は続けた。
「ですが、ミナさま……」
「カガリのことならば心配はいらん。私が責任を持って連れて行く」
お小言は帰ってからだ、と言われても喜んでいいものかどうか。
いや。ひょっとしたらその『お小言』は自分にも向けられるのかもしれない。
「カナード」
「わかってます。キラを連れてデュランダルの家に行けばいいのでしょう?」
即座にカナードがそう言ってくる。
「そうだ。任せて大丈夫だな?」
「もちろんです」
二人の言葉には裏に別の意味が含まれているような気がしてならない。
「傷つけると、レイにかみつかれますからね」
だが、それを問いかけることは許してもらえないようだ。
きっと自分が知らない方がいいことなのだろう。キラはそう判断する。
「レイは怒らないと思いますけど……」
それに何と言うべきか。そう考えて唇から出たのはこんなセリフだった。
「それはお前相手だからだろう?」
「……お前にはお小言で済ませても、他の相手には違う、と言うことだ」
あいつも表裏あるからな、とカナードが言えば、周囲の者達は頷いて見せる。
「まぁ、お前はそうやって世話を焼かれているのがちょうどいい」
それは何なのか。
「僕の方が年上です」
反射的にそう反論する。
「それとこれとは別問題だな」
だが、キラの意見はあっさりと否定されてしまった。