小さな約束

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 この光景を見るのも久しぶりだな、とキラは思う。
「やっと帰ってこられましたわね」
 背後からラクスの声が響いてきた。
「そうだね」
 確かに、とキラもうなずき返す。
「でも、僕はまたすぐに離れることになるのかな?」
 今までの話し合いの結果だと、と続けた。
「それは仕方がありませんわ。キラの安全が最優先です」
 キラが地球軍に捕まったと聞いた瞬間、自分がどれだけ心配したか。
 ラクスが切々と説明してくれる。
「……ごめん」
 自分のせいではないとわかっていても、思わずこう言ってしまう。
「キラが謝ることではありません。悪いのは自分達に有利な状況を作ろうとお馬鹿な行為をした地球軍が悪いのです」
 うふふふふふ、と彼女は笑いを漏らす。
「……あの、ラクス……」
「ナチュラルは敵ではありません。むしろ、これから手を取り合ってともに巣すべき仲間です」
 天使のようなと言われる笑みを作りながらラクスは言葉を綴り始める。
「でも、地球軍は違いますわ」
 それなりの報復をしなければ、と彼女は言い切った。
「そうだな」
 いつの間に来ていたのだろうか。カガリもラクスに同意している。
「どんな報復がいいだろうな」
「そうですわね……二度とこんなバカなことを考えないようにしていただかないと」
 カガリの言葉にラクスはこう言い返した。
「アスランよりもしつけがいがありますわね」
 さらに付け加えられた言葉を聞かなかったことにしたくなる。
 しかし、それは無理だろう。
 せめて誰か、この状況を共有してくれる人はいないのか。
 そんなことを考えながら視線を彷徨わせる。そそくさとこの部屋を出て行こうとする背中を発見した。
「ミゲル!」
 逃げるな、とキラは言葉を投げつける。
「悪い、勤務の時間だ」
 しかし、彼はこう言うとドアの向こうに姿を消す。
「アスラン、よこすから」
 最後に残されたセリフがこれだった。
「……逃げたな」
 キラは思わずそう呟く。
「僕だって、逃げたい」
 背後から聞こえてくる地球軍上層部抹殺計画――というのは言い過ぎだろうか――を必死に聞き流しながら言葉を重ねた。
「……キラはどれがいいと思います?」
 しかし、当人達がそれを許してくれない。
「もっと穏便な方法はないの?」
 とりあえず、と問いかける。
「これでも穏便だが?」
「そうですわね。本当ならMSで踏みつぶしてもかまわないところですわ」
 二人は間髪入れずに言い返して来た。
「これがザフトの歌姫だなんて……」
 本性を知ったら立ち直れない人々が多いのではないか。
「カガリもだな。これでも、国内では大人気だ」
 あきれたようにカナードが呟く。さすがの彼も、この状況は衝撃的だったのかもしれない。
「しかし、ここにミナさま達がいなくてよかったぞ」
 彼はそう続ける。
「……そう言われてみればそうかも」
 実力があるから厄介なのではないか。
「どちらにしろ、地球軍の上層部とその背後にいる連中は終わったな」
 それはこの戦争が終わると言うことと同義だといいな、と思う。
「……被害がこっちに来なければ、それでいいんだけど……」
 思わず本音を漏らすキラにカナードは苦笑を浮かべていた。

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最遊釈厄伝