小さな約束

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 その報告は唐突だった。
「……地球軍のMS?」
 誰もが信じられないというように呟いている。
「クルーゼ隊が奪取してきたものとは別の機体ですか?」
 その中でただ一人、ギルバートだけが冷静さを保っていた。
「別の機体らしい……それも、三機あると」
 まだ衝撃が抜けきらぬ声で仲間の一人が教えてくれる。
「なるほど……どうやら、セイランは完全に信用されてはいないと言うことですね」
 モルゲンレーテではないところで建造されていたのだろう。
 もちろん、そのためのデーターはモルゲンレーテから横流しされたものに決まっている。
 あるいは、とため息とともに続けた。
「最初から技術を盗む目的でモルゲンレーテに潜入していたものがいた可能性もある、ね」
 それについては、自宅に戻り次第、ミナに相談してみるしかない。ギルバートは心の中にそうメモをする。
「とりあえず、少しでもデーターが欲しいな」
 代わりにこう告げた。
「報告書をあげなければならないだろう」
 不本意ながら、と付け加えれば、周囲の者達の頭が一気に現実へと引き戻されたらしい。
「すぐに手配を!」
 こうなれば彼らも選ばれてここにいる人間だ。即座にやるべきことを見つけて動き出す。
「……しかし、厄介だね」
 逆に言えば、それだけ本気だと言うことなのだろうか。
「私が判断すべきことではないな」
 それに関しては軍の上層部か最高評議会が判断すべきことだ。そう呟く。同時に自分がその場にいられないことにギルバートは少しだけいらだちを感じていた。

 その報告はすぐに最高評議会へとあげられた。
「……だが、まだナチュラル用のOSが完成したとは聞いていないが……」
 パトリックがそう言いながらユーリへと視線を向ける。
「先日までテストをしていたのは同胞だと聞いている」
 後は、と彼はため息をつきながら手元のモバイルを操作した。
「ソウキスもかかわっているらしい」
 戦闘のためだけに生み出された彼らであれば、何の疑念も持たずに行動するだろう。
「しかし、今回のパイロットはソウキスではないかもしれん」
 何か別の方法を見いだしたのではないか。ユーリはそう締めくくる。
「早急に調べさせた方が良さそうだな」
「たしかに」
 その報告に他のメンバーも頷きあった。
「家の息子からのメールでは、何かをつかんだようなのだが……」
 こう言ってきたのはタッドだ。
「残念ながらメールでは誰に盗み見られるかわからないからな。それ以上のことは聞き出せなかった」
 それは当然だろう、とパトリックも思う。
「ヴェサリウスはこちらに向かっている。その時に聞き出すしかあるまい」
 有益な情報であればいいが、と思いながら口を開く。
「そうでなければ、別方面から情報を得るかだな」
 暗に、今現在、デュランダル邸に滞在しているミナの存在をほのめかす。
「……あちらにしても興味があることか」
「間違いなくな」
 どちらにしろ、自分達に出来ることは情報を集めること。そして、それを分析して全戦で戦っている者達が一人でも多くこの地に戻ってこられるよう、あれこれと手を尽くすことだけだ。
「そういえば、補充の方はどうなっている?」
 シーゲルがそう問いかけてくる。
「武器はそれなりに」
「食料の方ももう少しで農業プラントが完成するわ」
 即座に報告が上がってきた。
 こちらに関しては心配がいらないと言うことだろう。
 そうなればやはり心配なのは戦場と言うことになる。
 どうすれば勝てるのか。パトリックはその方法を考え始めていた。

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最遊釈厄伝