小さな約束

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「やはり、急いだ方が良さそうだね」
 ミゲルからの報告を聞いてラウはそう決断する。
「本国へはヴェサリウスだけで帰国する。ガモフはこのまま予定通りのコースを通ってヤキンへ向かえ」
 ガモフよりもヴェサリウスの方が船足が速い。一刻も早く民間人を安全な場所に避難させるには、遅い方を切り捨てるしかないだろう。
 問題は、である。
 戦闘要員の割り振りか、と心の中で呟いた。
 キラ達のことを考えればミゲルはこちらに残しておきたい。だが、それでは戦闘中の指揮を執れるものがいなくなる。
「ラクス嬢がいる以上、アスランは残さないわけにはいかないしね」
 さて、どうするか。小さな声でそう呟く。
「俺がガモフに残りましょうか?」
 そのつぶやきが聞こえたのか。ミゲルがこう問いかけてくる。
「そうすると、キラの負担が大きくなるからね」
 アスランがいる以上、とラウは口にした。
「それに、この艦には地球軍の士官も乗り込んでいる。ないとは思うが、奪還作戦もあり得るだろう」
 その時に戦えるのが自分とアスランだけでは心許ない。だからと言って、ニコルをこちらに残すのも不安だ。
「ラクス嬢とアスラン、双方の抑えになれるのは君だけだしね」
 自分がもっと時間を割ければいいのだが、とラウは苦笑を深める。
「アスランさえおとなしければいいんでしょうけど……でも、ニコルだとキラと一緒にハッキングしまくりますか」
 先日の様子から判断して、とミゲルが呟く。
「そういうことだよ」
 ある意味有効だが、はっきり言って胃薬の消費量が一部で増える。
「カナードも止めないしね」
 困ったものだ、と彼は続けた。
「そうなると、やはり、イザークにディアッカ、ニコルの三人にオーロン達をガモフに、でしょうか」
「そうだね。それが無難だろう」
「指揮権はオーロンに」
「いや。適性を見たい。三人に交代に取らせて、オーロン達にはフォローとバックアップをさせよう」
 アスランも含めて《紅》なのだ。いずれは指揮官として独り立ちしてもらわなければいけない。
「基本的に相手を殲滅だからね。難しくはないだろう」
 問題があるとすれば、どれだけ味方の損傷を少なく出来るかだ。
「そのあたりはオロール達にたたき込ませよう」
 先兵は新兵を教育する義務がある。
 オロール達はアカデミーではさほど目立った生徒ではなかった。だが、実戦ではラウが認めたパイロットである。他の隊に行けば十分指揮官としての役目を果たすことが出来るだろう。
 そんな彼らだ。イザーク達をうまく教育してくれるのではないか。
「後はゼルマンにフォローさせればいいか」
 イザーク達も彼には頭が上がらないはず。そう呟く。
「それしかないでしょうね」
 ミゲルもそう言って頷く。
「我々も本国での報告を終えたらすぐに合流することになるだろう。それまで無事に生き延びてくれればそれでいい」
 言外に、それ以上のことは望まない、と続ける。
「まぁ、連中だけで何かを変えられるわけではないですからね」
 ミゲルもそう言って笑う。
「キラが暴走したらどうなるかわかりませんが」
「それは笑えないね」
 キラであれば十分に可能だろう。そして、周囲に無条件で手を貸す者達もいるのだ。
 残念だが、とラウは小さなため息をつく。自分の立場ではあの子が動いてもすぐに駆けつけることは出来ないだろう。
「俺もその場にいたいんですけどね」
 それはミゲルも同じだ。
「あの子が暴走しないように祈るだけだね」
 ラウのその言葉にミゲルも頷いて見せた。

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最遊釈厄伝