小さな約束
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「久しぶりだな」
そう言ってムウは笑う。
「貴様がいきなり行方不明になってからだから……十年ぶりぐらいか?」
いや、もっとになるか? とラウが言い返して来る。
「十三年ぶりだろうな。ほとんど、あそこで別れたのが最後だろう」
ムウはそう言い返す。
「あいつを預けてすぐに大西洋連合に渡ったからな」
もちろん、事前にウズミの許可を取り、バックアップを受けて、だ。
「何故?」
「あっちの情報は必要だろう?」
ラウの問いかけにすぐにそう答える。
「オーブが動いているのはわかっていた。だが、オーブ軍関係だとあちらにも情報が渡りかねないからな」
それはまずいだろう、とムウは続けた。
「だからと言って、お前でなくても……」
「他人に言えない秘密っていうのもあっただろう?」
それに、と口にしながらまっすぐに片割れを見つめる。そうすれば、その秀麗な容貌を隠している仮面の奥のまなざしがにらみ返してくるのがわかる。
「それを知っているのは俺たちだけだ。そして、俺たちの中でナチュラルなのは俺とカガリだけだろう?」
まだ幼かったカガリにそんなことはさせられない。
そうなれば、消去法で自分以外にいないではないか。
「……そう言うことにしておきましょう……」
ため息とともにラウが言い返して来る。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「どうするもこうするも、オーブに戻るさ。すでにこき使われることが決定している」
ギナに、とムウは言う。
「いろいろと計画しているようだしな、あいつらは」
付き合わざるを得ないだろう。彼ははき出すように続けた。
「厄介だな」
「全くだ」
二人は顔を見合わせると同時にため息をつく。
「……それで? 俺はどうなるんだ?」
不意に真顔になると、ムウはこう問いかける。
「当面はここにいてもらう。後は本国での話し合い次第だな」
もっとも、とラウは続けた。
「そういうことならば、お前の身柄はミナさまがちゃんと引き取るだろう」
がんばってこき使われろ、と彼は笑う。
「そうだな。できるだけ早くこの戦争を終わらせねぇと」
バカがバカなことを考え出す前に、だ。ムウはそう呟く。
「何を知っている?」
即座にラウが突っ込んできた。
「……あくまでも噂だぞ。裏がとれているわけじゃない」
「裏を取るのは専門家に任せればいいだろう?」
ムウの言葉にラウがこう言い返してきた。それはそうかもしれない、とムウも思う。
「……ユニウスセブンの悲劇を再度引き起こそうとしている連中がいるらしい。しかも、今度は核ではなくもっと陰惨な方法で、と言う噂が出ていただけだ」
それがどんな方法なのか確認しようと思ったが、護衛任務を命じられた。タイミングとして、気にかからなくもない。
「あるいは、ふるいだったという可能性はなきにしもあらずだ」
なにかで疑われていた可能性も否定できない。
「どちらにしろ、厄介だと言うことか」
「あぁ」
言葉は悪いが、戦争は金になるからな。だから、終わらせたくない人間がいるのだろう。
「キラにはこんな世界を見せたくないな」
ただでさえ厄介な重荷を背負わされているのだ。これ以上のものはキラには必要ない。
「そうだな」
これに払うも素直に同意をしてくれた。