小さな約束

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 ここでも部屋の中に閉じこもっていなければいけないのは同じらしい。
「……暇……」
 キラは思わずこう呟いてしまう。
「暇つぶしにハッキングしちゃだめだろうな」
「……お前な」
 そのつぶやきを耳にした瞬間、ミゲルがあきれたようにため息をつく。
「それだけはやめておけ」
 頼むから、と言いながらミゲルがキラの肩に手を置いた。
「これ以上、俺の負担を増やさないでくれ」
 さらにそう付け加える。
「……ラクス? それともカガリ?」
 とっさにそう聞いてしまったのは、彼にそれだけの衝撃を与えられる人間が他に思い浮かばなかったからだ。
「お前な」
 ミゲルがため息混じりにそう言い返してくる。
「あの二人のお守り役はアスランだろう? ついでに、被害も一手に引き受けている」
 つまり、まだ人身御供は続いていると言うことか。キラは心の中でそう判断する。
「じゃ、何で?」
 この問いかけにミゲルは周囲を見回す。誰もいないのは一目瞭然だというのにまだ安心できないのだろうか。
「……隊長の八つ当たりだよ」
 キラの耳元に口を寄せるとそうささやいてくる。
「ご苦労様です」
 それにこう言い返すしかできなかった。
「でも、あきらめてね。ラウさんが愚痴を言える相手ってギルさんかミゲルぐらいだと思う」
 レイはわからないが、彼は自分の前では絶対にそんなことを言わない。それが少し悔しいと思う。
「まぁ、それはあきらめるしかないとわかっているけどな」
 ラクスのそれよりはマシだろう。ミゲルはそう続ける。
「アスランの様子を見ていると、そうとしか言えない。あいつ、戦闘で使い物になるのか?」
「……さぁ」
 どれだけよれよれになっているのかがわからないから、とキラは言い返す。
「でも、アスランだから大丈夫じゃないかな?」
 かっこつけだから、と付け加えた。
「あぁ。そうだな。あいつは見栄っ張りだった」
 ミゲルも即座に頷いて見せる。
「それに今はここにお前とラクス様がいるし」
 さらに彼はこう言うと笑った。
「お前の前で下手な戦いはしないだろうし……そんなことをしたらラクス様にさらにいたぶられるだろうからな」
 それは避けたいだろう、と彼は言う。
「……そうだね」
 確かにラクスならやる。キラにもそれは簡単に想像がついた。
 そうなったら、アスランは完全に立ち直れなくなるだろう。
「あいつもその危険性はわかっているはずだ。ラクス様も、そこまで追い詰めてはいないようだしな」
 問題なのは、とミゲルは再び表情を曇らせる。
「その場に立ち会っている連中の精神的疲労だな。ニコルはともかく、イザークとディアッカがひどい」
 あの二人は免疫がないからな、とミゲルは続けた。
「……大丈夫?」
「わからん」
 あれだけは、と彼はため息をつく。
「アスランが早々に折れればいいんだろうが」
「無理だろうね」
 アスランだから、と告げればすぐに「だよな」と返される。
「厄介だね」
「厄介だな」
 顔を見合わせて笑うしかない二人だった。

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最遊釈厄伝