小さな約束

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「何で俺がこんな目に……」
 アスランがぶつぶつと呟いている。それがものすごく鬱陶しい。
「そもそも、ミスしたのはお前だろうが」
 とりあえず、とカガリはそう指摘した。
「お前の婚約者はラクスなんだろう?」
「……ラクスは殺しても死なない」
 彼女の問いかけにアスランはこう言い返してくる。
「逆に下僕を増やして終わりだ」
 そこまで言うか。カガリはそう考えながらアスランをにらみつけた。
「だからと言って、キラを逃げ場にするな」
 瞳に力を込めるとこう言う。
「あいつはこれからもっと交友関係を広げていくんだ。その邪魔をするな」
 さらに付け加えれば、アスランが目を丸くした。
「どういう意味だ?」
 そのままこう問いかけてくる。
「お前はプラントでそれなりの家柄なんだろう? そんな人間が周囲をうろついてみろ。普通の人間は尻込みをするぞ」
 そんな彼に向かってカガリはためらいなく言葉を投げつけた。
「……お前はどうなんだ?」
「私はキラの味方だからな。それに、お前なんて気にしない」
 自分の存在をプラントは邪険にできない。例えアスランの父親でもだ。
 何よりも、あのときのキラの様子を覚えていれば離れるなど考えるはずがない。
「いざとなれば私がキラをオーブに連れて行く」
 自分が守る、と彼女は言い切った。
「必要なら、レイも呼び寄せるしな」
 そのくらいのわがままは聞いてもらえるだろう。
「キラがそばにいてくれないのは寂しいですが、キラの安全のためには仕方がありませんわね」
 ラクスはそう言って頷いて見せる。
「……何故、勝手に決めている!」
 だが、アスランはこう言うとにらみつけてきた。
「私もサハクと関係があるからな」
 アスハにも、とカガリは笑う。
「キラを守れる程度の力はある」
 それに、と彼女は続けた。
「プラントはオーブを……サハクとアスハと敵対したくないだろう?」
 いろいろな意味で、と付け加えればアスランが悔しげににらみつけてくる。
「まったく……少しはマシになったかと思いましたのに」
 ラクスがあきれたように告げた。
「お前、何者だ?」
 今更ながらのセリフをアスランは口にしてくれる。
「興味がなかったんじゃないのか?」
 カガリは即座にそう言い返す。
「お前にここに連れてこられてから一度も聞かれなかったが」
 キラにかかわっていると知ったとたんにそれか、とあきれたような視線を彼に向けた。
「名前がわかっていれば十分だったからな」
 アスハの係累だと言うことも聞いていた、とアスランは言い返して来る。
「だが、お前の口ぶりだと、ただの係累じゃないようだからな」
 違うのか、とさらに問いかけを投げつけられた。
「否定はしない」
 にやり、とカガリは笑う。
「私の名はカガリ・ユラ・アスハ。ウズミ・ナラ・アスハの娘だ!」
 そう言った瞬間、アスランの目が大きく見開かれた。どうやらカガリの言葉の意味が伝わったらしい。
「キラを守るには十分ですわね」
 それに、とラクスが微笑む。
「カガリはわたくしのお友達ですわよ、アスラン」
 そしてキラの、と彼女は続ける。
「本当に、じっくりとお話をした方が良さそうですわね、あなたとは」
 ラクスの言葉はカガリの中で戦いのゴングのように思えた。

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最遊釈厄伝