小さな約束

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 妙にアスランの軍服ががよれよれになっている。
「……もう少し見出しに気を付けたまえ」
 理由はわかっているが、と心の中で呟きながらもラウはそう言う。そのまま彼は視線を移動させた。
「ラクス嬢にもキラにも、長い間、不自由をかけたね」
 にこやかな表情を作って言葉をかける。もっとも、仮面のせいで口元しか見えていないだろうが。
「いえ、カナードさんが一緒でしたし、後地球軍の大尉さんがかばってくれましたから」
 キラがそう言い返してくる。
「地球軍の大尉?」
 そういえば、あの男がそうだったな。心の中でそう付け加える。
「フラガ大尉です。後は整備の方々にも」
 やはりか、とラウは心の中で呟いた。
「なるほど。ならば、それなりに配慮するように言っておこう」
「逆に、ブリッジクルーのバジルールとやらは締め上げてもいいと思うぞ。あれは典型的な地球軍の軍人だ。ラミアス大尉は違うがな」
 カナードがそう口を挟んでくる。
「そうですわね。ブリッジクルーの中でもラミアス大尉とノイマン曹長はお話しができましたわ」
 ラクスもさりげなくデーターを提示してきた。
「では、主に彼らに話を聞かせてもらいましょう」
 ラウは三人の言葉を脳裏にメモをしておく。
「その前に、キラとカナード君にはもう少し話を聞かせてもらいたいね。特に、あの新型について」
 もちろん、これは口実だ。
「わかった。協力できることはしよう」
 それが伝わったのだろう。カナードがあっさりと頷いて見せる。
「その間のラクス嬢の世話はアスランに一任しよう」
 ラウがこういったときのアスランの表情をどう表現すればいいのか。もっとも、見ている分にはおもしろいとしか言いようがない。
「婚約者なら当然のことだな」
 カナードが追い打ちをかけるようにそう告げる。
「ついでにそいつの面倒も見てもらおうか。どうやら、気が合ったようだしな」
 彼はそう言ってカガリを指さす。
「あぁ、それはいいな」
 にやり、とカガリは笑う。
「せっかくできた新しい友人だ。じっくりと交友を深めさせてもらおう」
「すてきですわね」
 ラクスも笑顔とともに頷いている。
 逆にアスランの顔からは血の気がどんどん失せていった。
「そういうことだ、アスラン。がんばりたまえ」
 ラウはとどめを刺すようにこう言う。
「隊長!」
 さすがに認められないのか――それとも身の危険を察したのかもしれない――アスランが抗議の声を上げる。
「命令だよ、アスラン・ザラ。君の失態は聞いている」
 ふりだけでもラクスを優先すればよかったものを。そう心の中で付け加えた。
「あきらめろ。どう考えても、一番最初にキラの名を呼んだお前が悪い」
 ミゲルが笑いながらそう声をかけてくる。
「こういうことは順番が大切ですからね」
 年下のニコルにまでこう言われては反論のしようがないのか。アスランは唇をかみしめている。
「と言うことでこれは連れて行きます」
「自分で歩け、腰抜け」
 さらに左右からディアッカとイザークが彼の腕をつかんだ。
「では、失礼します」
 そのまま彼らはさっさと部屋を出て行く。その判断力は高評価を与えてもいいだろう。アスランも、キラがかかわらなければ彼らと同レベルなのだが、とため息をつく。
「では、クルーゼ隊長。わたくし達もこの辺で」
「お手間を取らせてしまい申し訳ありません、ラクス様。部屋にはミゲルに案内させましょう」
「お願いしますね、ミゲル」
「はい」
 ミゲルはそう言うとラクスへと手を出す。この心遣いができればよかったのだろうな、と誰もが心の中で呟いたのは事実だった。

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最遊釈厄伝