小さな約束

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 カガリがまっすぐにこちらに向かってくる。それを見た瞬間、カナードはアスランの背中を彼女の方に向かって押した。
「なっ!」
 アスランはきっと、抗議の声を上げようとしたのだろう。
 だが、それよりも早くカガリのラリアットが彼を吹き飛ばす。
「カガリ……」
 その光景にキラが言葉を失っている。それは他の者達も同じだ。
「私の行く手を遮ったこいつが悪い」
 悪びれた様子もなく彼女はこう言い返してきた。
「それにこいつだろう? お前のストーカーは」
 さらに彼女は言葉を重ねる。
「昔の話だよ」
 何年前のことだと思っているの、とキラは聞き返す。
「私が知っている限り、昔ほどひどくはないとは言え、今も続いているはずだ」
 レイから連絡が来ている、と続けた。
「……レイ……」
 メールに何を書いているのか、とキラはため息をつく。
「ずいぶんとお詳しいのですね」
 ラクスが問いかけた。
「キラは私の大切な友だちだからな。余計な虫は早々に駆除すべきだろう?」
 それにカガリがこう言い返す。
「それには同意しますわ」
 言葉とともにラクスは視線をアスランへと向ける。
「一応、婚約者もおりますのよ」
「それはますますだめだな」
 義理でも何でも婚約者優先だろう、とカガリは呟く。
「友人を優先などと言っていいのは義務を果たしてからだよな」
「当然です。いつも言い聞かせているのですが、なかなか覚えてくださらなくて」
 ラクスがそう言ってため息をつく。
「そう言うときは体に覚えさせないとだめだろう」
 カガリが笑いながらとんでもないセリフを口にした。これがペット相手ならばキラも納得したかもしれない。しかし、彼女が視線を向けているのはアスランだ。
「わたくしもそう考えているのですが、非力な身ではなかなか……」
 さらにラクスが頷いている。
「ちょっ……」
「……何と言えばいいものか」
「まぁ、自業自得だろう」
「そうですね」
 ミゲル達はミゲル達で、ある意味他人事のように会話を交わしていた。あるいは、彼女達に突っ込めないのかもしれない。
「二人とも……あのね」
 仕方がない、とキラは口を開く。
「そう思いますわよね、キラ?」
 さらにラクスが微笑みながら迫ってきた。
「……よく、わからない、な」
 その迫力に逃げ出したいと思いながらもそう言い返す。
「でも、実力行使の前に話し合いの方がいいと思うんだけど……」
 さらに付け加える。
「そういうことなら、ミナさまが得意だな」
 にやりと笑いながらカナードが口を挟んできた。それは決してアスランを助ける意味ではないだろう。
 逆に、アスランに死亡フラグが立ったように感じてしまった。
 しかし、本当にミナがそんなことをするだろうか。
「もっとも、それはミナさま達と合流してからのことだ」
 それまではおとなしくしていろ。カガリに向かって彼はそう言う。
「わかった。ミナさまに相談しておく」
 カガリがそう言って頷く。
「……アスラン、早々に謝った方がいいと思うよ、ラクスに」
 とりあえず、とキラはしゃがみ込む。そして彼に向かって声をかけた。
「俺は、悪くない!」
 しかし、アスランはこう言い返してくる。それが二人のやる気に油を注いだのは事実だ。
「……バカな奴」
 ミゲルのつぶやきを否定できるものはこの場にはいなかった。

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最遊釈厄伝