小さな約束
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「キラ!」
言葉とともにアスランが駆け寄ってくる。だが、その彼がいきなり後ろに倒れ込んだ。
「……ラクス?」
「婚約者を無視するとはいい根性ですわね」
もっとも、駆け寄られての不本意だが。彼女はそう言いながら手を前へと差し伸べる。そこに一仕事終えたピンクちゃんが戻ってきた。
「どうすればよかったのですか?」
苦笑を浮かべたミゲルがゆっくりと歩み寄ってくる。いや、慎重にと言った方が正しいのか。
「まずはわたくし達に声をかけてから行動を起こしてもらいたかったですわ。確かにカナード様がいらしてくださいましたが、それだけでは安全ではありませんもの」
せめて何が起きているのか、説明をしていく義務があったのではないか。そのセリフはどう考えても八つ当たりだとキラは思う。
「すみません。時間勝負のところがありましたから」
素直にミゲルが頭を下げる。
「それに、目的が二人だとばれると、人質にされかねませんでしたし」
そうなると、本気で動きがとれなくなる。彼はそう付け加えた。
「そういうことにしておいてあげますわ」
ラクスはそう言いながらゆっくりとアスランに歩み寄る。そして、起きようとしていた彼の背中を踏みつけた。
「ラクス、それはないんじゃ……」
「何を言っていますの、キラ。婚約者を無視した相手にはまだ生ぬるいお仕置きですわよ?」
ねぇ、と彼女はミゲル達に同意を求めている。
「そういうことにしておくか」
カナードが苦笑とともにそう言った。
「それよりも、二人をこのままこの艦に乗せておくのはどうかと思うぞ。バカはまだあきらめていないだろうしな」
さらに彼はそう続ける。それは正論のように思えた。
「確かに。そういうことで、ヴェサリウスに移動していただけますか?」
ミゲルは丁寧な口調でそう問いかけてくる。
「あちらにはオーブのお客さんもいらっしゃいますし」
さらに彼はそう付け加えた。
「ひょっとして……」
カガリ、とキラは首をかしげる。
「ひょっとしなくてもカガリだろうな」
カナードがそう言って頷く。
「おとなしくしていればいいが」
さらに彼はそう付け加える。
「大丈夫じゃないかな。一応、周囲のことは見ているだろうし」
でも、とキラは呟く。
「合流してからが怖い」
この言葉にカナードが「そうだな」とため息混じりに頷いて見せた。そのまま視線をラクスへと向ける。
「混ぜるな、危険……かもしれん」
さらに彼はこう呟く。
「もっとも、俺たちに被害は及ばないだろうがな」
あくまでも局地的なものだ。唇の端を持ち上げながらカナードがこう言う。
「お前たちの隊長が人身御供を差し出すならな」
さらに彼はこう付け加えた。
「それは大丈夫でしょう」
即座にミゲルがこう言う。
「そうか。ならば、キラはゆっくりとできるな」
カナードはそう言って頷く。
「と言うことだから、ギナ様が顔を出すまでおとなしくしていろ」
その言葉に不安を感じたのはどうしてなのだろうか。
「……はい」
それでもそう言うしかないキラだった。