小さな約束
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「ようやく、あの船を掌握できたようだね」
ラウが小さなため息とともにそう告げる。
「何か?」
それが聞こえたのだろうか。アデスが問いかけてきた。
「サハクの援助を受けたようだよ。困ったものだね」
内密とは言え、どのような条件をつけられるか……とラウは続ける。
「まぁ……今回は仕方がないでしょうな」
アデスが言葉とともに苦笑を浮かべた。
「キラ君だけならばともかく、ラクス様もおられますし」
言外に『早々にラクスを回収したい』と彼は言う。どうやら、自分のそばにいたせいで彼女の本性に気づいてしまったようだ。
それはそれで不幸なのかもしれないが、今はは話が早くていい。
「そうだね。あの子のことならばサハクが責任を持ってくれるはずだしね」
彼らならばキラを安全な場所に保護しておいてくれるはず。状況によってはプラントにいるよりもあの子のためになるかもしれない。
もっとも、レイにはごねられるだろう。
その時には彼もサハクに押しつければいいだけのことだ。
「さて……本国に連絡を取らなければね」
あちらからラクスを迎えに来てもらわなければいけない。
そのほかのことはその後だ。
ラウは心の中でそう呟く。
「上がなんと言って来るか」
今後のことについて、と小声で付け加える。
「もっとも、まだ戦争が終わったわけではないからね。気を抜くわけにもいくまい」
今回、敵の新型を確保できたとは言え、あちらが他の機体を開発していないとは言い切れないのだ。
それに関する情報が入ってこないと言うことはモルゲンレーテがかかわっていないと言うことだろう。
だとするならば、間違いなく連中がかかわっているのではないか。何よりも、今回のことでこちらの動きもあちらに悟られた可能性がある。
それに関する対策も考えなければいけないだろう。
「厄介事はまだまだ山積みだね」
ため息とともにラウは言葉を重ねる。
「一つ一つ片付けていくしかないのだろうが……私の手には余るか」
こうなれば、今回のことでオーブに戻るであろう片割れにがんばってもらうしかない。そう心の中で付け加えていた。
「どうやら、あちらはとりあえず治まるところに治まったようだぞ」
ミナがそう言いながら振り向く。
「そうか……家出娘も帰ってくるな」
苦笑とともにウズミはそう言い返す。
「ついでに、あれもな」
軍籍を用意してこき使わなければ、とミナが付け加えている。それが誰のことか、確かめなくてもわかった。
「だが、しばらくは顔を出さぬ方がいいと思うぞ」
彼の顔はあちらこちらに知られている。下手に動くと彼自身が危ないのではないか。
「何。すでに地球軍からはあれらの存在を消されている。その後のことはこちらの勝手にしてかまわぬであろう」
最初から彼らを切り捨てるつもりだったらしい。ミナの言葉にウズミは眉根を寄せた。
「こちらの者達もか?」
だとするならば厄介ではないか。言外にそう告げる。
「まだ繋がってはいるようだぞ」
楽しげに彼女はそう言った。
「さて、どのように追い込んでやろうかの」
あれらを、とミナが笑う。
「あの日から今までの分の恨み、ぶつけてもかまわぬであろう?」
悪行の証拠は山ほど集まっている。このまま追い落とすには十分だ。その言葉にウズミも苦笑を浮かべるしかない。十年以上もかかってこつこつと集めてきたのではないか、彼女は。
「できれば、勝敗が決してからにしてくれ」
そうでなければあいつらは逃げかねない。
「では、ギナに適当に動くように言っておこう」
あれも鬱憤がたまっていたはずだからな。その言葉に頷くしかできないウズミだった。