小さな約束

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 キラが小さなため息をつく。
「もう少しだ」
 即座にカナードが声をかけてくる。
「どうやら、ギナ様もすでに乗り込んでおられるようだしな」
 そう言って彼は小さな笑いを漏らす。
「本当ですか?」
 いったいいつの間に、と思いながらキラは聞き返す。
「あの人のやることだ。あまり深く考えるな」
 神出鬼没は当然だ、とカナードは言い切る。
「俺もあの人ほどではないがそれなりにできる。お前はそう言うものだと覚えていけばいい」
 さらに彼はそう付け加えた。
「……カガリも?」
 彼女もできるのか、と言外に問いかける。
「あれは……できない方がよかったんだがな」
 本土を抜け出すために使っている、と彼は続けた。
「あぁ、それでヘリオポリスにいたんだ」
 キラは納得したというように頷く。
「あれはまだかわいい方だな。今回のことに巻き込まれなければ、適当に回収できた」
 そう彼は告げる。
「もっとも、今回のことで少しは懲りたと思うが」
 相手はカガリだ。そのあたりがはっきりとはしない。
「今回のことが終わったらミナさまにしっかりとしかっていただくが」
 カナードはそう言って笑った。
「その時は、お前は別室だな」
 カガリのためにも、と彼は続ける。
「カガリも怒られているところは見られたくないですよね、確かに」
 その言葉にキラもうなずき返す。
「ミナ様もな」
 その後でぼそっと続けられた言葉に意味はあるのだろうか。
 それを問いかけようとしたときだ。
 いきなり、ドアの向こう側から銃声のようなものが響いてくる。
「……何?」
 反射的にキラはそう呟く。
「大丈夫ですわ、キラ」
 言葉とともにラクスがキラを抱き寄せる。それだけではなくさりげなく耳を塞いだ。
 二人の様子を確認してからカナードが立ち上がる。当然のようにドアへと歩み寄ると外の様子を聞き取るために耳を澄ませているようだ。
「どうやら、一組は地球軍ですわね。もう一組は……噂の方のようですわ。微妙に聞き覚えのある声の方もいらっしゃいますが」
 ラクスがそう言う。
「いい耳だな」
「ありがとうございます」
 カナードの言葉にラクスがそう言って微笑む。
「ともかく、心配はいらないようですわ。終わりそうですから」
 さらに彼女はこう付け加えた。
「でも、これでミゲルとアスランにはお小言決定ですわね」
 ふふふ、とラクスが笑う。それを聞いた瞬間、思い切り二人がかわいそうに思えたのはどうしてだろうか。
「自分の仕事を優先しているだけなのに」
 キラはそう呟く。
「それを優先しつつもわたくし達の安全を確保するのが彼らの義務です」  ラクスの言葉に反論すらできないキラだった。

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最遊釈厄伝