小さな約束
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艦内のシステムはすでに掌握している。
「後は、ブリッジだけか」
アスランはそう呟く。
「ドアをロックして、物理的に隔離できるか?」
ミゲルがこう問いかけてくる。
「可能だが、何故だ?」
「ついでに外部との通信手段も遮断してしまえば、連中は何もできない」
違うか? とミゲルは続けた。
「なるほど」
アスランはそう言って頷く。
「厄介事は隊長に押しつける予定か」
にこやかにそう言い返す。
「……それは違うって」
キラ達を早々に安全な所に連れて行くにはそれが一番手っ取り早いだろう。デッキや機関部はすでにこちらに投降の意を示しているのだ。
「あいつらがバカなことをしないようにだって」
自爆装置を作動されたら厄介だ。言外にそう続ける。
「そこまでするか?」
「やりかねないだろうな」
ミゲルはそう断言した。確かに、それは否定できない。アスランもそう考える。
「わかった」
言葉とともにキーボードを叩く。
「ここからの作業以外受け付けないようにしておく」
ブリッジからは全ての作業をキャンセルさせるようにプログラムを改変すればいいだけだ。
「こういうことはキラの方が得意だけどな」
「……だからと言って、手伝わせるなよ?」
「わかっている」
あいつは民間人だから、とアスランは付け加える。
「第一、あの人が許さないだろう?」
キラ達と一緒にいた彼が、とため息混じりに口にした。
「……そうだな」
確かに彼は怖い、とミゲルも頷く。
「白兵戦はもちろん、MS戦でも勝てる気がしない……よくて相打ちだな」
この言葉にアスランの方が驚いてしまう。
「まさか」
ミゲルの実力はザフトの中でもトップクラスだ。《紅》こそ身にまとっていないが、そんなことを気にする人間はいないだろう。
悔しいが、自分も三回に一度勝てればいい方である。
そんな彼がこんなことを言うとは思えなかった。
「……多分、隊長と同レベルだぞ、彼は」
もっとも、実際に戦ったらラウの方が勝つだろう。それは経験の差があるからだ。ミゲルはそう言う。
「そこまでか」
アスランはため息とともにそう言った。実力差はわかっていても、具体的なレベルまではつかめなかったのだ。
「あぁ。もっとも、いずれ追いついてみせるがな」
にやりと笑いながらミゲルはそう言った。
「……俺だって、負けていられるか」
少なくとも今のミゲルと同等にならなければ、カナードは自分がキラのそばにいることを許可してくれないだろう。
誰の許可もいらない、と言い切れる。だが、実力行使に出られたらどうなるか。
そう考えれば努力するしかない。
「……ミゲル、システムの改変は終わったぞ」
「わかった。ならば、後はあそこのロックを破壊すればいいか」
行くぞ、とミゲルが声をかけてくる。
「了解」
そう言うとアスランも立ち上がった。