小さな約束

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 艦内に混乱が生じているらしい。
「……何があった?」
 その報告にムウはこう呟く。
「ザフトの兵士が艦内に侵入していました。現在、サブデッキを占拠しています」
 とうとうやったか。予想より遅かったな、と言うのが本音だ。
「そうか。それでか」
 だが、それを口に出すわけにはいかない。
「ったく……ここのドアさえロックされてなければ」
 代わりにわざとらしくドアを叩いてみせる。
「まだ解除できないのか?」
 カナードあたりの仕業だとするならばここにいるメンバーでは解除は不可能だろう。
「すみません、大尉」
 虚勢を張っても無駄だと判断したのか。すぐに言葉が返される。
「システムは正常ですし、動力も来ています。どうなっているのか、全くわかりません」
 何か細工をされているのだろうが。それがどのようなものなのか見当もつかないと彼は続けた。
 それを聞いた瞬間、ムウの口元に苦笑が浮かぶ。
 そういえば、昔そんないたずらをしたな。その時にサハクの双子も一緒にいた。その話をカナードが聞いていたとしてもおかしくはない。
 同時に、あの方法であれば中から開けることは不可能だ。
 そして、である。
 今、艦内にここを確認にこれる人間はいないだろう。
 ここにいるメンバーを除けば、艦内で白兵戦を専門にして来た者達はいない。
 うまい具合に戦力を隔離したものだ、と別の意味で感心したくなる。
 さすがはサハクの双子が手をかけて育てただけのことはあるな、と心の中だけで呟いた。
 後問題があるとすれば、だ。
「お嬢ちゃん達を人質にするなどと言うバカなことを考えていなければいいが」
 誰がとは言わない。だが、可能性はあるだろう。
「恥の上塗りはやめて欲しいよな」
 ぼそっと呟けば、他の者達も同意をしてくる。
 捕虜になったとしても殺されるわけではない。ただ、かなり居心地が悪いだけだ。
 多分だが、地球のザフト支配区域にある収容施設に送られるのだろう。
「不本意だが、サハクの口利きを期待するしかないだろうな」
 うまく行けばオーブ側に引き取ってもらえるかもしれない。そう付け加えたのは、間違いなく、今回のことで自分がオーブに帰ることになるからだ。
 それは当然のことだろう。しかし、ともに戦ってきた者達に対して少しだけ後ろめたいというのも事実だ。
 まぁ、それもあの双子が手を回してくれるのではないか。
 もっとも、その後でこき使われるのは目に見えている。それくらいは妥協してもいいだろう。
「ともかく、だ。もう少し粘ってみてくれ」
 さすがにここであきらめては何を言われるかわからない。そう続ければ彼も苦笑とともに頷いて見せる。
「そうですね。あきらめるにはまだ早い」
 無駄だとわかっていても最後まであがくべきだろう。彼もそう言って頷く。
「さて……排気口の金網を外せるかどうか。努力してみるか」
 そう言いながらムウは壁際へと駆け寄る。
「こういうときに重力は邪魔だな」
 ぼやきながら排気口へと手を伸ばす。
 その動きが不意に止まった。
 嘘だろう。心の中だけでそう呟く。
 ここにいるはずがない相手が目の前にいたのだ。
「……勘弁してくれ」
 思わずこう呟いてしまったとしても、誰も彼を責められないはずだ。心の底からそう考えてしまうムウだった。

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最遊釈厄伝